東京大学と甲南大学,東北大学,国立天文台,米マサチューセッツ工科大学の研究グループは,宇宙初期の初代星の超新星爆発がジェット状の非対称な爆発であった可能性が高いことを観測とシミュレーションから明らかにした(ニュースリリース)。
研究グループは,「HE 1327-2326」という天体をハッブル宇宙望遠鏡に搭載されている紫外線分光装置「Cosmic Origins Spectrograph」を使って2016年5月から7月にかけ観測し,そのデータからこの天体の元素組成を詳細に調べた。
この天体は2005年に発見され,その鉄の存在量が水素との比で太陽の10万分の1以下という極端な少なさから,まだ宇宙に重元素が存在していなかった時代に形成された初代星の,次の代の第二世代の星とされている。
小さく暗い第二星代の星は寿命が長く,一部の第二世代の星は現在でも観測可能なため,第二世代以前の初代星について調べる重要な手がかりとされている。一方の初代星は,ビッグバン後2,3億年後に水素とヘリウムのガスで構成される天体として生まれ,星の内部では熱核反応により炭素や鉄,亜鉛を含む重元素を作り出したと考えられている。
また,初代星が超新星爆発する際は,球状に広がる形での対称的な爆発を引き起こしたと従来考えられてきたが,詳細についてはわかっていなかった。
今回,研究グループによる観測データ解析の結果,HE 1327-2326の亜鉛の存在量が鉄と比較して太陽の6倍以上と極めて高いことがわかった。この天体が今回観測されたほどの亜鉛の高い存在量を獲得するためには,初代星が従来考えられてきたような形での超新星爆発を起こすことでは難しい。そのため,研究グループは観測データを説明するために初代星の爆発シミュレーションを行なった。
このシミュレーションでは,爆発エネルギーや爆発の構造,パラメーターを変化させ10,000回以上行なった。その結果,従来考えられていたような初代星の球対称的な爆発では,第二世代の星であるHE 1327-2326で観測されたような高い存在量の亜鉛は生成できない一方,初代星がジェットを吹き出すような非球対称な爆発を引き起こした場合は可能であることがわかった。
初代星の超新星爆発は,内部で作られた重元素を大量に撒き散らすに十分な強力なジェットを吹き出す激しい爆発で,エネルギーとしては水素爆弾の爆発の10の30乗に相当するほどのものという。
研究グループは,今回の研究成果は,初代星の超新星爆発の構造を明らかにしただけでなく,電離状態だった誕生すぐの宇宙が水素原子の形成により一旦電気的に中性になったものの,何らかの原因により再び電離状態になったとされる「宇宙再電離」の謎に迫るものだとしている。