日本電信電話(NTT)は,情報・システム研究機構 国立情報学研究所(NII)と共同で,縮退光パラメトリック発振器のネットワークを用いて組合せ最適化問題の解を高速に探索する情報処理の新手法「コヒーレントイジングマシン」の持つ柔軟なノード間接続の仕組みが,複雑なグラフ構造の問題を高い正答率で解くうえで重要な役割を果たしていることを明らかにした(ニュースリリース)。
社会が高度化するにつれて,さまざまなシステムの構造も複雑化し,これらのシステムを効率的に運用することが近年の重要な課題となっている。その多くは組合せ最適化問題と呼ばれる数学的な問題に置き換えて考えることができるため,コンピューターで効率的な運用法を見つけることが期待されている。
この研究のコヒーレントイジングマシンは,縮退光パラメトリック発振器(DOPO)と呼ばれる特殊なレーザー発振器を人工的なスピンとして用いる。今回,コヒーレントイジングマシンと,超伝導量子ビットを用いた量子アニーリングマシンを用いて,組合せ最適化問題の1つである最大カット問題における正答率の評価実験を行なった。
さまざまな構造のグラフ問題を解いた結果,ノード間の辺密度の低いグラフに対しては,量子アニーリングマシンがコヒーレントイジングマシンを上回る正答率を示した。一方で,グラフの辺密度が高くなるにつれ,量子アニーリングマシンの正答率は低下していき,50ノード,辺密度50%のグラフに対しての正答率はおよそ0.001%となった。
これに対して,コヒーレントイジングマシンでは,測定・フィードバック法を用いることで全てのDOPO間に相互結合を実装することが可能であり,どのような構造のグラフもそのままの形で問題を解くことが可能。そのため,グラフの辺密度によってコヒーレントイジングマシンの計算性能が大きく低下することはなく,50ノードの辺密度の高いグラフに対しても数十%程度の高い正答率で最大カット問題の解探索に成功し,量子アニーリングマシンを上回る計算性能を示すことが確認された。
研究グループは,今後,コヒーレントイジングマシンに実装されている測定・フィードバック法が,多数のDOPO間に複雑なネットワーク構造を実装する基盤技術として,より大規模な組合せ最適化問題を高速に解くイジング型計算機の実現に寄与するとしている。