東京大学の研究グループは,2017年に発表した「究極の大規模光量子コンピュータ」方式の心臓部となる回路を開発し,計算原理の本質ともいえる量子もつれ合成動作を実現した。(ニュースリリース)。
長い間,光量子コンピュータの実現方法として,量子ビットの情報を乗せた多数の光パルスを多数の光路上に同時に準備した上で,光路に沿って光学部品を並べて光回路を構成することで量子ビットを処理していく方式が考えられてきた。
しかし,この方式で多数の量子ビットに何ステップもの計算をする大規模な計算を行なおうとすると,光回路の規模が増大し,実用レベルの計算を行なうには膨大なスペースと膨大な数の光学部品が必要になるため,大規模化は難しいと考えられてきた。
一方で2017年9月,研究グループは「究極の大規模光量子コンピュータ」方式を発明した。この方式のポイントは,時間的に一列に並べた多数の光パルスが,計算の基本単位となる1ブロックの量子テレポーテーション回路を何度もループする構造になっていること。
ループ内で光パルスを周回させておき,1個の量子テレポーテーション回路の機能を切り替えながら繰り返し用いることによって,どれほど大規模な計算でも実行できる。この方式は,光量子コンピュータの飛躍的な大規模化を促すと同時に,それに必要なリソースやコストを大幅に減少させると期待され,その実験的検証が待たれていた。
今回,「究極の大規模光量子コンピュータ」方式の量子テレポーテーション回路の基本構造を持つ回路を構築した。さらに,光の速度で次々とやってくる光パルスのタイミングに合わせて,この回路のミラーの透過率・位相シフタの設定を数ナノ秒の時間精度で高速に切り替える制御システムを開発した。
この切り替えパターンを適切に設定すれば,最小限の回路を機能を切り替えながら繰り返し利用し,次々とやってくる独立な光パルス同士を順次量子もつれに変換することが可能となる。
今回,回路の規模や構造を一切変更することなく,回路の機能切り替えパターンを変更するだけで,2~3個の光パルスの量子もつれや1000個以上の光パルスの量子もつれなど,さまざまな規模および種類の量子もつれを合成することができた。この量子もつれの合成動作は,「究極の大規模光量子コンピュータ」方式での計算原理の本質ともいえる動作。
研究グループは,この回路を拡張すれば,1000ステップ以上さまざまな種類の計算が実行可能となり,高い拡張性と汎用性を兼ね備えた「究極の大規模光量子コンピュータ」の実現へとつながるとしている。