大阪大学は,プラスチック材料の中で化学酸化処理が困難なポリプロピレン(PP)を光酸化させ,極性官能基を導入することに成功した(ニュースリリース)。
現在,高分子産業では5大汎用樹脂(低密度ポリエチレン,高密度ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリ塩化ビニル,ポリスチレン)の製造が盛んに行なわれている。これらの高分子材料成形後の表面改質は,本来高分子が有する耐久性などを維持したまま,接着性の向上,撥水性の制御,表面の化学修飾などが可能となることから幅広く利用されている。
その多くはコロナ放電処理やプラズマ放電処理といった物理的処理で行なわれている。一方,化学的処理では大量の重金属酸化剤を用いなければならず,毒性,処理コスト,環境面などの問題がある。
化学的に非常に安定なポリエチレンやポリプロピレンなどのプラスチックに,成形後に官能基を導入し機能化することは,大きなニーズがあるが,化学薬品との反応性が乏しいために極めて困難とされてきた。
これまで,研究グループは,メタンやエタンなどをアルコールあるいはカルボン酸へと酸化する技術を見出している。ここでは反応剤として使用する二酸化塩素ガスに光照射を行なうことによって,ガス状低級炭化水素を酸化することができる。この方法を用いれば,ガス状低級炭化水素と同様飽和炭化水素で構成されるプラスチック材料の表面酸化が可能になると考えた。
今回の研究では,ポリプロピレンやポリエチレンなど極性官能基の全くないプラスチック表面に二酸化塩素ガスを接触させ,光照射することによって,化学的に安定なヒドロキシ基やカルボキシ基などの極性官能基を不可逆的に導入できることを発見した。
これにより処理効果の寿命は,従来法に比べ向上するという。また,光を当てたところのみをスポット酸化処理できることが大きな特長。導入された極性官能基は,有機合成化学的にさまざまな機能性分子に置換することができるため,プラスチック表面に親水性や染色性などの機能を付与することができる。
従来技術における物理的な表面加工は接着性や耐水性の向上などに限られてた。今回の成果は,側鎖アルカンのアルコールおよびカルボン酸への酸化が可能となるため,その後の官能基導入の自由度が非常に高い。また,この反応は室温で行なうことができ,加熱・冷却などの設備が必要無いことから経済性にも優れる。
研究グループは,二酸化塩素ガスへの光照射によって得られる化学種がプラスチックの炭素−水素結合を切断することによって反応が始まるため,ほぼすべてのプラスチック材料に対し適用できる方法が確立されたとしている。