北海道大学とスイスフリブール大学らの研究グループは,伸縮により白色蛍光のON/OFFを瞬時に可逆的に切り替えるゴム材料の開発に成功した(ニュースリリース)。
最近,主に高分子化学の分野で,力(機械的刺激)によって共有結合が切断され,色変化,触媒作用,化合物の放出といったさまざまな応答を示す「メカノフォア」と呼ばれる分子骨格が着目されている。しかし既存のメカノフォアは共有結合を切断する必要があるため,可逆性に乏しい等の問題があった。
今回,研究グループは,3種類のロタキサン型超分子メカノフォアを合成した。ロタキサンは蛍光団を持つ環状分子,蛍光団からの蛍光を消光するための消光団とストッパー部位を持つ軸分子の2分子で構成される。大きなストッパー部位のおかげで,環状分子は軸分子から遠くに離れることはできない。
まず初期状態では,消光団が環状分子に包接され,消光団と蛍光団が隣接することで蛍光団からの蛍光が消光される。しかし,いったん高分子鎖を介して機械的刺激がメカノフォアに伝達されると,環状分子がスライドして消光団から離れ,蛍光団からの強い蛍光が観察されるようになる。
共有結合を切断しているわけではないため,加えられている機械的刺激をなくすと,すぐに蛍光団が消光団の近くに戻り,蛍光は再び消光される。今回の研究では導入する蛍光団として,拡張されたピレンやアントラセン,そしてレーザー色素としてよく知られているDCM色素を用いた。これらの蛍光団は,365nmの励起光照射下,強い青色蛍光,緑色蛍光,橙色蛍光(周囲の環境に依存して赤色蛍光にもなる)を示す。
ロタキサンを形成すると,溶液中では蛍光団からの蛍光が消光団によって完全に消光されることが明らかとなった。それぞれの超分子メカノフォアをポリウレタンに共有結合を介して導入し,溶媒キャスト法によりゴム特性をもつフィルムを作製した。得られたフィルムは伸縮により瞬時,かつ可逆的に蛍光をON/OFFスイッチすることがわかった。
これにより,蛍光団を単純に変更することで,機械的刺激に応答してスイッチする蛍光の色を簡単に変更できることが実証された。さらに,得られた3種類のポリウレタンを質量比で8:16:5の割合で混ぜることにより,白色蛍光をON/OFFスイッチするゴム材料の開発に成功した。
フィルムを延伸することにより,青色,緑色,橙色の発光強度が上昇していることがスペクトル測定により明らかとなった。これまでに白色発光を示す有機材料は多数報告されているが,機械的刺激で白色蛍光をON/OFFスイッチする材料は今回のゴム材料が初めての例という。
研究グループは,今回開発した材料は機械的刺激を可逆的かつ鋭敏に検出できるため,さまざまな材料におけるセンサーや,材料の受けるダメージの可視化・定量評価などへの応用が期待できるとしている。