福岡大学は,磁石の中を伝わる波(スピン波)が伝わる特性を,周期的なナノ構造を持った金属の磁石(金属マグノニック結晶)により制御し,世界で初めてその特性を電気的な手法のみを用いて観測することに成功した(ニュースリリース)。
電子機器の中枢を担っているシリコン集積回路は,近年の過度な高集積化によってリーク電流が増加しており,それによる消費電力の急激な増大が大きな問題となっている。これを打開するために,エネルギー消費のほとんどないスピン波によって情報伝達や情報処理を行なうスピン波デバイスの研究が盛んに行なわれている。
このデバイスは,電流が流れないためにジュール熱による損失がなく,超低消費電力であるとして次世代の情報伝達・情報処理技術として期待されている。その中でも,既存のシリコン集積回路技術と整合性の高い材料である強磁性金属に,ナノスケールの周期構造を導入することで,スピン波の特性を制御する研究(金属マグノニック結晶)が,最近注目を集めている。
これまでの研究では光による検出手法が用いられており,純粋にスピン波の特性調査に主眼が置かれていた。しかし電子機器への応用を考えた場合,電気的な手法のみで金属マグノニック結晶中にスピン波を発生させ,それを検出する必要があった。
今回,研究グループは,「パーマロイ」と呼ばれる強磁性金属の薄い膜(厚さ50nm)に深さが25nmの溝を等間隔で配置した構造の金属マグノニック結晶を作製し,それに適した平面アンテナを用いることで,世界で初めて,マグノニック結晶のスピン波の特性(バンドギャップ)を電気的な手法のみで観測することに成功した。
研究グループは,この測定結果は,マイクロマグネティックシミュレーションでよく再現できており,今後はこのシミュレーションを活用した効率の良いデバイス設計やその最適化も期待できるとしている。