産業技術総合研究所(産総研)は,インフラ構造物を効率的に検査できるデジタルX線イメージング装置を開発した(ニュースリリース)。
X線は産業インフラなどの検査法としても用いられてきた。しかし,インフラ構造物が厚く,重くなると,その場で画像を取得・確認できるデジタルX線イメージング装置による診断は難しい。そのため,これまでは現像が必要なX線フィルムか現像装置による処理が必要なイメージングプレートと大型のX線発生装置を組み合わせ,検査には多大な労力と時間を要していた。
今回,研究グループは,これまで産総研で開発していたデジタルX線イメージング装置を大面積化・高精細化し,バッテリーで駆動できるデジタルX線イメージング装置を開発した。
X線イメージング装置の大面積化と高感度化・高精細化を両立させるために,フラットパネル部には素子からの電流リークが少ない高性能TFTを用い,さらにデジタル回路部とゲート制御部をフラットパネル部から分離して,配線レイアウトを最適化することで低ノイズ化を実現した。
これにより180秒以上の露光が可能になり,従来画像化できなかった微弱なX線でも,長時間露光によってX線画像診断ができるようになった。また,有感エリアを43cm×35cmに大面積化するとともに,画素サイズを139μm(800万画素)に微細化したことで,解像度が向上してより精細なX線画像が得られる。
さらに,フラットパネル部とその他の回路部分などを分離したので,X線の有感エリア以外の部分を鉛などで保護することで高い放射線耐性を付与でき,200keVの高エネルギーX線に対応した。
これまでの開発品と比較して,有感エリアの面積が約2倍となり,一度に広範囲を検査できるため,大型バルブやプラントの配管など,厚みのある金属部材の欠陥箇所を効率的に,高い分解能で検知できるという。
また,鉄10cm厚相当の構造物のX線検査画像をその場でリアルタイムに取得できるようになり,従来のX線フィルムやイメージングプレートに比べて,検査時間を1/10以下まで短縮する。
さらに,X線源が小型で済むので,漏洩するX線量も1/100以下に抑えられる。軽量でバッテリー駆動できる利点を生かし自動検査ロボットなどに搭載すれば,インフラ構造物の現場で効率的に検査できるようになり,安心安全な社会の実現への貢献が期待できるとしている。