東京工業大学は,特定の波長の光を使った時に,その光では検出が不可能な「不可視化構造」を単一物質でも実現できることを見いだした(ニュースリリース)。
近年,メタ物質を用いたクローキング技術が注目を集めている。クローキングとは構造を特定の媒質で覆うことにより全体を不可視化する技術。一方で,単一の物質でも形状をデザインすれば,不可視化が可能であることは知られていなかった。
研究グループは,円柱に偏光する光を当てた際の散乱効率を,ミー理論により解析的に計算し,屈折率が2.7以上3.7以下の物質(シリコン(Si),ヒ化アルミニウム(AlAs),ヒ化ガリウム(GaAs))で不可視化が実現できることを見出した。実際,これらの物質では,円柱構造の作製が研究されており,将来的には不可視な円柱構造を実際に作製できると考えられているという。
円柱を光で照射した際に生じる光磁場をシミュレーションした結果,不可視化条件ではない場合,円柱で光が散乱されて波面が乱れるため,観測者は散乱光を見れば円柱があることがわかる。一方,不可視化条件の場合は円柱構造があるにも関わらず,光は何事も無かったように通り抜けていくことがわかった。
つまり,円柱があっても無くても位相を含めて光波は同じ状態であり,光では円柱を観測することはできない。言い換えると,高い屈折率の物質でできた円柱であるにもかかわらず,形状をデザインすることにより,対応する波長の光に対しては実効的に,その屈折率を空気と同じ1とすることができることがわかった。
円柱構造内の光磁場の分布を計算したところ,不可視化条件ではない場合,円柱内の光磁場は対称に分布しない。この非対称な光磁場分布からは散乱光が放射され,円柱を観測すること(見ること)ができる。一方,円柱が不可視な条件だと,中心にプラスの光磁場が分布し,マイナスの光磁場は上下に対称に存在する。そのため,ここからは光磁場はキャンセルし散乱光は放出されず,円柱は観測できないことがわかった。
この構造は高い屈折率を有する半導体で実現されるため,不可視な光学素子や電子素子,光と相互作用しない配線が実現できる。たとえば,電子素子や配線があっても,それが不可視化されていれば,光による情報伝送は妨げられない。
さらに,構造や周辺の屈折率のわずかな変化で可視化したり不可視化したりするので,バイオ分野のセンシング素子や光学スイッチング素子などへの応用が考えられるという。
また,この研究の成果は光だけでなくマイクロ波やラジオ波などの電波でも有効。この成果を発展すれば,電波と干渉しない構造体の設計にも役立つとしている。