東京工業大学の研究グループは,水中で分子カプセルがステロイド性ホルモンの混合物の中から,男性ホルモンを選択的に捕捉できることを発見し,分子カプセルと蛍光色素を組み合わせることで,極微量の男性ホルモンの蛍光センシングにも成功した。(ニュースリリース)。
酵素はタンパク質からなるナノポケットを利用し,狙いとする生体分子を選択的に捕捉することで,続く生理活性や酵素反応を厳密に制御している。この生体系にとって重要な第一段階を人工的に模倣することができれば,特定の生体分子の超高感度な検出法の開発が期待できる。
生体のステロイド性ホルモンは,わずかな分子構造の差で異なる生理活性を誘導し,その役割によって男性と女性ホルモンに大別される。生体ポケットはこれらの性ホルモンを厳密に識別できるが,従来の合成レセプターでは識別できなかった。
研究では,同グループが作製した分子カプセルが,種々のステロイド性ホルモンを水中で効率良く取り込むことを見出した。今回,そのカプセルが類似の構造を持つ男性と女性ホルモンの混合物から,男性ホルモンのみを識別して捕捉できた。
そのメカニズムとして,剛直なカプセル骨格が内包したホルモンの形状に誘起されて構造変化し,多点の分子間相互作用が働くことが判明した。さらに,高感度な男性ホルモンの検出デバイスを志向し,分子カプセル内での分子交換反応を利用した,テストステロンの蛍光センシングに挑戦した。
本来,水に不溶なクマリン系色素は分子カプセルに捕捉されると水溶化し,紫外光照射で青緑色に発光する。この水溶液に,代表的な男性ホルモンであるテストステロン約200ナノグラムを含む水溶液を添加すると,テストステロンが優先的に捕捉され,クマリンは放出された。その結果,紫外光照射に対して蛍光が顕著に低下した。この蛍光変化は,蛍光光度計でも明確に検出され,男性ホルモンのナノグラムセンシングに成功した。
今回,これまで困難であった男性ステロイドホルモンの高選択的な識別を達成すると共にナノグラム量の男性ホルモンの蛍光検出に成功した。これらの成果は,性ホルモンの生理活性機構の解明や複雑な生体関連分子の識別を可能とする合成レセプターの設計指針を与えるだけでなく,スポーツ界で問題となっているステロイドのドーピング検出などの超高感度分析への展開も期待できるものだとしている。