大阪大学は,身近な天然高分子セルロースの基礎的な光学性能である固有複屈折を解明した(ニュースリリース)。
木材などから得られるセルロースナノファイバーは,成膜すると柔軟で高強度かつ低熱膨張性の「透明な紙」になることが知られ,フレキシブルディスプレーの透明基材など光学用途への応用が期待されている。しかし,セルロースが持つ固有複屈折が明確でなく,位相差を制御する本格的な光学部材としての活用に対してボトルネックになっていた。
これまで,セルロースの固有複屈折値は実験や計算から予測されていたが,用いるセルロース試料や導出方法によって値が大きく異なり,具体的に解明されていなかった。
課題は,従来よく使用された再生セルロース試料では,①分子鎖の形態(コンフォメーション)が一定しない②解析に必要となる分子鎖配向性が正確に求まらない③測定精度を向上させるため測定点を増やして分布解析することが必要という点にある。
研究グループは,まず望ましいセルロース試料として,分子鎖が伸び切って結晶化し,分子レベルの形態が安定しているナタデココ由来セルロースナノファイバーを選定した。
次に段階的な配向フィルム化処理を行ない,2次元X線回折法により分子配向性を精密に決定した。そしてフィルム状試料の面内における光学位相差マッピング像を観測し,1視野における11万点以上の位相差データを個別の測定点とみなして綿密な分布解析を行なった。
その結果,セルロースの固有複屈折が従来予想値のみならず多くのプラスチック類よりも高いことを見出した。さらに今回の研究で開発した配向性ナノファイバーフィルムは,光学特性と伝熱性を同時制御可能であることが判明した。さらに,この材料は従来のプラスチックフィルムやガラス基板にはない「複合機能フィルム」として薄型化と排熱に同時に寄与するという。
研究グループは,フレキシブル電子デバイスの透明基材として用いられるセルロースナノファイバー製の「ナノペーパー」に位相差制御性を付与して「光を制御する紙」とすることで,液晶ディスプレーなどオプトエレクトロニクスのコントラスト向上や画面の虹ムラ・光漏れを低減する光学補償部材としての高度利用が期待できるとしている。