東京大学は,磁性金属において圧電効果を世界で初めて観測することに成功した(ニュースリリース)。
圧電効果とは,特定の種類の物質材料に圧力を加えて歪みを生じさせることで,電圧が発生する現象。物質材料が金属である場合には,圧電効果により生じた電気分極が,動き回る多量の電子により打ち消されてしまう。そのため金属材料は圧電効果を発現しないと考えられてきた。
しかし,研究グループは,2017年に空間反転対称性の破れた磁性金属における磁気圧電効果の理論予測を発表した。通常,圧電効果はフェルミ準位にエネルギーギャップをもつ半導体や絶縁体でしか観測されないが,磁気圧電効果は物質材料の磁気的性質(磁性)を利用することでフェルミ面を有する金属材料で観測されることを特徴とする。
今回,研究グループは,磁性金属EuMnBi2が磁気圧電効果を発現する条件を満たすことに着目した。実験では合成したEuMnBi2単結晶に交流電流を結晶の面直方向に印加し,そのときに発生する動的変位信号をレーザードップラー振動計により計測した。
これは圧電効果の逆向きの応答(電圧印加により材料の歪みが生じる現象)である逆圧電効果の測定に相当する。液体窒素温度(-200℃)から室温まで試料温度を変化させることで,詳しい実験を行なった。
液体窒素温度において,試料に交流電流を印加し,レーザードップラー振動計により試料の振動運動の有無を計測したところ,面内方向にのみ試料の歪みが生じていることがわかった。これは試料の対称性から期待される磁気圧電効果の発現方向と一致する。
また,発生した歪みは印加する電流の大きさに比例して増大し,磁性をもたないEuZnBi2では歪みが見られないことから磁性と関係した現象であることがわかった。これらの結果は,磁気圧電効果の理論予測と完全に合致しており,磁気圧電効果が観測されたことが示された。
今回の研究では,EuMnBi2の導電性が室温付近で比較的悪くなることから,-100℃以下の低温でしか磁気圧電効果は観測されないことがわかった。また,その大きさも実用的な圧電効果材料と比べると1000分の1程度と小さいものだった。しかし,理論的には導電性に比例して磁気圧電効果は大きくなると予測されるという。
圧電効果はセンサーやアクチュエーターなどの電子機器に利用され,実用上重要な物理現象だが,主流である圧電効果材料は有害な鉛を含み,環境負荷の低減のために鉛フリーの圧電効果材料開発が熱望されている。研究グループは,今回の成果は,鉛フリー圧電材料開発の新しい設計指針となるだけでなく,導電性,圧電性,および磁性を有した複合機能材料の開発につながるとしている。