東京大学は,直径がnm~μm程度の大きさの微粒子(コロイド)が溶媒中に分散した「コロイド分散系」において,コロイドが凝集していく過程を,共焦点顕微鏡を用いて,1粒子分解能で3次元的に観察することに成功した(ニュースリリース)。
コロイド分散系とは,nm~μm程度の粒子(コロイド)が溶媒中に分散した系を指し,気体・液体・固体微粒子の懸濁液,タンパク質溶液,エマルジョンなど,ソフトマター物理学・生命科学が対象とする系の多くを含んでいる。これまで長年の間に,コロイドの凝集過程については,さまざまなシミュレーションモデルが適用されてきた。
しかし,これらの計算結果を,個々のコロイド運動と照らし合わせて精密に比較できる実験を行なうことは難しく,こうしたシミュレーションモデルの妥当性に関して,実験的な裏付けがなされていない。
今回,研究グループは,コロイド分散系の相分離の過程で起きるコロイドの凝集現象を,相分離のごく初期から,共焦点顕微鏡により1粒子レベルで3次元実時間観察することに成功した。さらに,実験で得られたコロイドの凝集構造の経時変化を,数値シミュレーション結果と直接比較することにも成功した。
その結果,実験とシミュレーションの間で,コロイドの密度とコロイド間の相互作用を正確にマッチングさせた状況下では,研究グループが独自に開発した,Navier-Stokes方程式の直接計算に基づく数値シミュレーション手法(流体粒子動力学法:FPD法)が,恣意的なパラメータを一切含まずに,実験結果をきわめて正確に再現することが判明した。
例えば,低密度のコロイド分散系で形成される空間的に孤立した凝集体のサイズ分布や,これよりも比較的高い密度で生じるネットワーク状の凝集構造のトポロジー的特徴(ネットワーク構造を貫く穴の個数など)について,実験とFPD法の間にきわめて良い一致が見られた。
一方,溶媒の流体力学的な運動の寄与を完全に無視したシミュレーション手法(ブラウン動力学法:BD法)による数値計算結果は,実験結果を全く再現できないこともわかったという。
研究グループは,今回の研究結果は,溶媒の流体力学的な振る舞いが,コロイドの自己組織化の過程においてきわめて重要な役割を演じることを明確な形で示し,また,今後のコンピューターをベースとした,ソフト・バイオマターのマテリアルデザインに新たな展開をもたらすものと期待できるとしている。