東京工業大学と東京医科歯科大学は,プラズモニック構造を利用した周波数の連続チューニング(選択)可能なテラヘルツ帯集光デバイスを開発した(ニュースリリース)。
テラヘルツ光の応用は,特に医療・バイオ分野で有望なターゲットの1つとして強い期待が寄せられている。その利用促進のための重要な研究課題の1つにテラヘルツ光の局所集中がある。だが,例えばがん細胞1個の大きさは約10μmであり,テラヘルツ波の波長(数百μm)に比べ非常に小さいため,単純にレンズで集光するだけでは回折限界により空間解像度と強度が制限されてしまい不十分だった。
研究グループはこの問題を解決するため,プラズモニック構造を利用したサブ波長領域プローバーの開発に取り組んできた。プラズモニック構造体に光が照射されると,プラズモンの伝播により光を1点に集光させ,大きな光電界増強効果を得ることが可能となる。
一方,テラヘルツ光の集光原理は,金属膜表面で発生するプラズモン共鳴に基づくが,従来の構造体でのプラズモン共鳴は単一周波数においてのみ生じるという問題があった。今回,研究グループは,新たにスパイラスブルズアイ構造を提案し,直径方向に応じて凹凸の間隔を徐々に変化させることでこの問題を解決した。
プラズモン共鳴は凹凸構造と垂直な偏光の光照射に対してのみ発生する。このため,直線偏光の光に対してデバイスを回転させるという簡単な操作だけで,任意の帯域で周波数をチューニングしながらテラヘルツ光を1点に集中・増強させることが可能となった。また円偏光の光に対しては一度の照射で幅広い帯域を検出可能となる。電磁界解析で構造を最適化したデバイスを作製し,透過測定を行なうことで実際に周波数チューニングが可能であることを示した。
作製したスパイラルブルズアイ構造体を実際に利用し,このデバイスが従来方法よりも解像度の高いサブ波長分光に利用可能であることを確認した。また,マウス臓器の測定では,臓器の種類ごとに異なるテラヘルツ透過スペクトルを観測し,部位の特定が可能であることを示した。
画像イメージングへの生体観測応用として,マウスの尾の断面を測定したところ,このデバイスを利用した場合では,より高解像度,鮮明な測定が可能であることを確認した。さらにマウスの肺内部を測定することで,波長より小さな領域における非常に微細な構造の観察を達成し,このデバイスのサブ波長領域生体測定における有用性を示した。
研究グループは今回,サブ波長領域でのテラヘルツ光の増強と周波数の任意チューニングが可能となったことにより,サブ波長領域での医薬品,将来は医療チップや病理検査への応用が期待されると共に,非侵襲の画像診断・治療方針の確立に向けて大きな一歩となるとしている。