東北大学と電気通信大学は,特殊な加工を施した結晶にレーザー光を通すだけで異なる2つの光子がもつ周波数(色)の間に「量子もつれ」を発生させることに成功した(ニュースリリース)。
現在の古典情報処理技術を凌駕する可能性を持つ次世代情報処理技術として,量子コンピュータや量子通信技術が注目されている。光子など複数の量子状態(進行方向,偏光,時間,周波数等)が互いに相関した状態である「量子もつれ」は,それら量子情報処理技術において重要な役割を持つ物理現象といわれている。
光子の自由度の中でも偏光や時間などの状態間の量子もつれ発生技術は既に確立されているが,一方で光の最も身近な自由度である周波数,または色における量子もつれの発生では,従来の方法では干渉計などの複雑な光学系や損失が大きい光フィルターを用いて特定の周波数を選択しなければならない問題があった。光子はその特性上,一度失ってしまうと復元が困難であり,より簡便かつ低損失な発生技術の開発は重要な課題だった。
今回,研究グループは,周波数の量子もつれ光子発生方法で,光子のペアの発生方法としてよく知られている「パラメトリック下方変換」という手法を使用している。パラメトリック下方変換とは,非線形光学結晶と呼ばれる特殊な結晶にレーザー光が照射されるとレーザー光内の1光子が2つの光子のペアへと分裂する現象。
しかし多くの場合,発生する光子のペアの状態は結晶材料とレーザー光の特性によって一意に決まっており(位相整合条件),複数の光子状態の相関である量子もつれは発生しない。
そこで今回の研究では,ニオブ酸リチウム(LiNbO3)結晶内の自発分極を異なる2つの周期で反転させた領域を作成し,2つの異なる位相整合条件を人工的に発生・制御することで,それぞれの領域で発生しうる光子のペアがもつ偏光と周波数が互い違いに相関している量子もつれ状態を直接発生させる方法を開発した。
そのような特殊な結晶から発生した光子のペアの2光子干渉を測定したところ,周波数の量子もつれに現れる特長的な,発生光子の周波数差のうなりが観測され,量子もつれの存在を実証できた。また,発生した周波数の量子もつれと,従来よく使用されている偏光量子もつれ状態の間の決定論的な相互変換も実証した。
研究グループは,今回の研究の周波数の量子もつれ光子発生方法は簡便かつ低損失であり,さらに多数の異なる周波数間の量子もつれ発生へと拡張可能であるため,今後光の周波数を情報媒体とした大容量量子情報処理技術の実現へ向けて重要な役割を果たすことが期待できるとしている。