オリンパスは,大腸のポリープを人工知能(AI)で解析して医師の診断を補助する,内視鏡分野において国内初の薬事承認取得AI製品となる,内視鏡画像診断支援ソフトウェア「EndoBRAIN®(エンドブレイン)」を3月8日から国内で発売する(ニュースリリース)。
このソフトウェアは,昭和大学横浜市北部病院,名古屋大学大学院,サイバネットシステムにより,AMED支援のもと研究開発された。臨床性能試験を経て,サイバネットシステムが2018年12月6日に医薬品医療機器等法の製造販売承認を取得し,オリンパスが国内における独占販売権を取得。昭和大学が臨床評価を行ない,名古屋大学が作製したアルゴリズムをサイバネットシステムが実装した。
大腸がんは,国内がん死亡数第2位・罹患数第1位と,近年増加傾向にある。大腸内視鏡を用いて早期がんや前がん病変である「腫瘍性ポリープ」を切除することで,大腸がんの死亡率減少に寄与することが報告されている。大腸の内視鏡画像からポリープを発見するAIの開発がいくつかのグループにより進められてきたが,現状では性能的に実用化には至っていない。
一方,ポリープには,腫瘍性ポリープの他に,切除する必要のない「非腫瘍性ポリープ」も存在するため,医師は検査中に両者を的確に判別する必要がある。しかし両者を見分けることはベテラン内視鏡技師や医師でも難しく,必要の無いポリープまでが切除され生研に送られることで,現場に混乱が生じているという。
そこで今回,内視鏡画像診断支援ソフトウェアの開発を進めていた昭和大学と名古屋大学が,オリンパスの超拡大内視鏡「Endocyto」の拡大性能に着目し,大腸ポリープの「発見」ではなく,人が発見したポリープの「腫瘍性」と「非腫瘍性」を見分けることを主眼としたAIソフトウェアを開発した。
生体内の細胞までリアルタイムに観察できる超拡大内視鏡として2018年にオリンパスが発売した「Endocyto」は,腸壁に内視鏡先端を押し付けるようにして最大520倍の光学拡大観察ができる。また,通常観察の他にNBIモード(血液中のヘモグロビンに吸収されやすい波長による血管の強調表示機能)と染色観察(色素を粘膜に散布して凹凸や色調変化を強調する観察法)を搭載している。
開発したAIソフトウェアは発見したポリープを拡大観察し,NBIモードによる血管の映像および染色観察による細胞の核の映像から,AIがポリープの「腫瘍性」と「非腫瘍性」を判断する。
約60,000枚の内視鏡画像を学習させたことで,国内多施設後ろ向き性能評価試験(過去の診療データを用いた評価試験)では感度(疾患のある患者のうち,正しく陽性と診断した割合)96.9%,正診率(疾患のある患者・ない患者のうち,検査で正しくそれぞれ陽性・陰性と診断した割合)98.0%という数値を得た。これは専門医に匹敵する診断精度だという。
撮影した大腸の超拡大内視鏡画像は検査中にリアルタイムに解析することが可能。画面上にAIが診断した腫瘍性/非腫瘍性である確率を表示して医師の判別を補助し,非腫瘍性のポリープの切除を防ぐことで検査速度を上げると共に現場の混乱を防ぎ,医療費の抑制にも貢献するとしている。
このAIソフトウェアは「Endocyto」専用となる。また,既に販売済の「Endocyto」に後付けで搭載することも可能。価格はAIソフトウェア「EndoBRAIN®」が450万円,内視鏡システム「Endocyto」本体が790万円(標準装備)となっており,オリンパスでは販売目標を導入3年で約260台,売上規模約30億円を想定している。