東北大学,高エネルギー加速器研究機構,独ケルン大学は,高輝度放射光を用いた光電子分光実験により,コバルトシリサイド(CoSi)の内部に,これまで他のトポロジカル物質で観測されていたディラック粒子やワイル粒子とは異なる新型の粒子「スピン1粒子」および「2重ワイル粒子」が存在していることを発見した(ニュースリリース)。
最近,このディラック粒子の質量が完全にゼロとなった「ワイル粒子」を持つ物質が発見され大きく注目されている。ディラック粒子やワイル粒子は,宇宙空間(真空状態)において存在する素粒子として提案されたもの。一方で,固体物質は規則的に並んだ原子の凝集体であり,真空状態に比べて多様な対称性を持っている。
この対称性のうち,鏡映対称性をもたないカイラルな結晶構造を持つ物質において,ディラックやワイル粒子とも違う, 真空状態では存在し得ないような粒子が存在することが,最近理論的に予言された。そのような粒子として,粒子の内部自由度がディラック粒子とワイル粒子の中間にある「スピン1粒子」や,2つのワイル粒子が複合した「2重ワイル粒子」など,高次の自由度をもつ新型の粒子がある。
これらの新型粒子にはディラック・ワイル粒子にはない物性や機能が予想されており,機能性物質の探索に大きな広がりを与えるものとして,これらの新型粒子を内包する物質の開拓が求められていた。
今回,研究グループは,新型粒子をもつ候補物質であるCoSiの高品質単結晶を作製し,放射光施設フォトンファクトリーの軟X線を利用した角度分解光電子分光を用いて,CoSiの電子状態を精密に観測した。軟X線により試料内部の電子状態を3次元的に詳しく測定した結果,「スピン1粒子」の特長である平らなバンドと山型のバンドが一点で交差するバンド分散と,「2重ワイル粒子」の特長である入れ子になったX字型バンド分散を,それぞれ明確に分離して観測することに成功した。
研究グループはさらに,放射光のエネルギーを変化させて,CoSiの表面電子状態についても調べ,この「スピン1粒子」と「2重ワイル粒子」をつなぐ表面フェルミアーク電子状態の観測にも成功した。これは,「スピン1粒子」と「2重ディラック粒子」が,それぞれ異なるカイラリティを持つことを示しており,これらの粒子がトポロジカルに頑強な性質を持つことの有力な証拠となる。これらの結果より,CoSiが「スピン1粒子」と「2重ワイル粒子」をもつトポロジカル物質であることが実験的に確立した。
研究グループは今後,これらの新型粒子が示す物質機能の開拓が進むとともに,放射光を駆使することでさらに新しい粒子の発見が期待できるとしている。