理化学研究所(理研)は,ジルコニウム(Zr)に対してレーザー偶奇分離法を適用し,従来提案されていた電子状態に比べて,奇数質量数の同位体のイオン化効率を約30倍増大させる電子状態を発見した(ニュースリリース)。
原子力発電所の使用済み核燃料を再処理した際に発生する高レベル放射性廃棄物には,核分裂生成物としてジルコニウムやパラジウムなどの有用元素が含まれている。このうちジルコニウムには,半減期の長い放射性同位体の93Zrと5種類の安定同位体が存在するため,ジルコニウムを資源化するには,93Zrを分離除去する必要がある。
照射するレーザーの偏光を制御することで,核スピンを持たない偶数質量数の同位体と核スピンを持つ奇数質量数の同位体を分離する方法としてレーザー偶奇分離法があるが,従来提案されている電子状態ではイオン化効率が低いという課題があり,それがジルコニウムへのレーザー偶奇分離法応用の障壁となっていた。
研究グループは,「分光学的にまだ調べられていない,電子遷移強度の大きな第3電子励起状態を見つけられる可能性がある」,「連続イオン化状態ではなく,自動イオン化準位へ共鳴励起すれば,イオン化効率は格段に大きくなる可能性がある」という2つの分光学的考察に基づき,イオン化エネルギーの上下にわたる広いエネルギー領域で,イオン化効率と奇数質量数同位体イオンの分離係数の両者を判定基準とした4レーザー分光探査の実験系を構築し解析を行なった。
その結果,第3電子励起状態の有力候補として,エネルギー49,551cm-1と51,848cm-1に新たな電子状態を発見した。両者ともにイオン化エネルギーよりも低いため,自動イオン化準位ではないが,高い分離係数を与える前者のイオン化効率は従来比17倍で,後者のイオン化効率は約30倍にのぼることが分かった。
研究により,従来のレーザー偶奇分離法を改良することで,ジルコニウムの奇数質量数同位体の選択的イオン化効率を大幅に向上できることが実証されたという。研究チームは,レーザー偶奇分離技術の実用化に向けて,今後,単位時間当たりの処理量のさらなる増大が求められるとし,そのためには,より多くの試料原子にレーザー光を照射するための技術の開発,特に照射レーザー出力の向上が望まれるとしている。