東北大学,金沢大学,名古屋大学,電気通信大学,国立極地研究所,京都大学,宇宙科学研究所(JAXA),米フロリダ大学,情報通信研究機構,カナダ・アサバスカ大学などの研究グループは,地上で観測されるオーロラを使い,地球近傍の宇宙で発生する電磁波コーラスと高エネルギー電子が共鳴することで生じる波動粒子相互作用発生域の形状変化の詳細を世界で初めて明らかにした(ニュースリリース)。
コーラス波動と電子が引き起こす波動粒子相互作用という物理現象は,人工衛星に搭載される電子回路の故障や宇宙飛行士の被ばくなどを引き起こす有害な放射線を発生させる。しかし波動粒子相互作用は目で見ることができないため,その形状変化の詳細は半世紀以上にわたり不明のままで,現在もなお国際観測研究が精力的に継続されている。
今回,研究グループは科学衛星「あらせ」に搭載する世界トップクラスの電磁波観測装置を開発するとともに,北半球を中心に地磁気的な緯度がほとんど同じとなる場所で経度方向に地球を1周する地上観測網「PWING(study of dynamical variation of Particles and Waves in the INner magnetosphere using Ground-based network observations)」を構築した。
これにより科学衛星「あらせ」でコーラス波動の詳細を捉えながら,いつ,どの経度でも地上から関連オーロラ現象を捉えることを可能にし,世界で初めて高時間分解能(10ミリ秒)で両者の協調観測を成功させた。
その結果,科学衛星「あらせ」と磁力線でつながるアラスカ南部のガコナ(PWINGの国際拠点の一つ)で観測された特殊な突発発光オーロラ現象は,数百ミリ秒の単位で宇宙のコーラス波動とオーロラの明るさと形状変化が一致する変化を示し,このオーロラがコーラス波動に伴う波動粒子相互作用発生域の形状変化を表すディスプレーになることを明らかにした。
さらに,地上で捉えたオーロラの明るさと形状変化は,従来の科学衛星の点観測では捉えることのできなかった波動粒子相互作用発生域の詳細を可視化し,世界で初めて地磁気的な南北方向に非対称性を強く示したという。
研究グループは,今回の研究は,オーロラが宇宙電磁環境を可視化するためのディスプレーに成りうることを間接的に示したとともに,今後,オーロラを用いた宇宙電磁環境ハザードマップを作成することにより,安心安全な宇宙利用拡大に貢献することが期待できるとしている。