矢野経済研究所は,世界の3Dプリンター市場の調査を実施し,需要分野別の動向,参入企業動向,将来展望を明らかにした(ニュースリリース)。
それによると,2017年の世界の3Dプリンター市場規模は,前年比18.4%増の27万台(メーカー出荷数量ベース)となった。市場では60万円未満のローエンド3Dプリンター(ローエンド装置)と60万円以上のハイエンド3Dプリンター(ハイエンド装置)の二極化が進行している。2018年は前年比16.7%増の31万5,000台を予測する。
3Dプリンターは装置や材料の進化によって欧米を中心に航空・宇宙や自動車,医療,家電,金型関連分野などで最終製品の造形や量産に向けた動きが活発である。試作やデザインの確認に留まりがちなローエンド装置は,STEAM教育に関心が高い教育機関などを中心に導入が増加しているものの,以前と比較すると成長は鈍化している。一方,ハイエンド装置については,特に金属を材料にする装置の伸びが顕著となっている。
STEAM教育とはScience(科学),Technology(技術),Engineering(工学),Art(芸術),Mathematics(数学)それぞれの単語の頭文字をとったもので,これらを重視する教育である。以前はSTEM教育であったが,デザイン思考の重要性などからArtが加わり,STEAM教育となった。
また,2017年の世界の3Dプリンター市場(メーカー出荷数量ベース)における日本の占める割合は3.5%で,この割合は2021年には2.0%にまで縮小すると予測する。
日本の3Dプリンター活用に対する意識は今のところ海外と比較すると低いものとみられるが,最近はより多く,また様々なものを造形するために複数台の3Dプリンターを所有するユーザー企業が増加基調にあるほか,よりハイエンド装置へのリプレイス(更新・代替)需要もあるなど,3Dプリンターを活用することに一定のメリットを見出したユーザー企業における3Dプリンターへの活用意欲は増しているという。
近年,ものづくり産業における競争力の源泉は品質や価格,納期ではなく,「モノ」を通じて市場にどのような付加価値をもたらすのか,という点に移りつつある。3Dプリンターは複雑な造形物を一体で作ることができるが,この特性を活かした設計等が行なわれないままになっているなど,日本のものづくりは3Dプリンターを活用しきれておらず,こうした変化に十分な対応ができていないようだとする。
国内における3Dプリンター市場がこれまで以上のスピードで成長するためには,3Dプリンターを活用する上での付加価値の在り方や,こうしたものづくりの源泉を見極めた上で,3Dプリンターを活用できる人材育成などについて考えていく必要があるとしている。
3Dプリンターは造形や材料の交換等の自動化,遠隔モニタリング,造形サイズの大型化などが進み,製造工場にも組み込まれはじめている。3Dプリンターは他の工作機械と比較すると,精度等の観点で未だ劣るところもあるものの,従来技術と相互補完の関係を維持しながら装置,材料,ソフトウェアが三位一体で進化し,用途の拡大とともに市場は成長を続けると見ている。
この背景には,中国において国が補助金を出して3Dプリンターを普及させる動きがあり,ポーランドにおいては政府系機関の資金を活用して3Dプリントセンターを設立するなど,国家戦略として3Dプリンターを普及させる政策等も継続して実施されていることがある。こうしたなか,世界の3Dプリンター市場規模(メーカー出荷数量ベース)の2015年から2021年までの年平均成長率(CAGR)は16.7%で推移し,2021年には48万台になると予測した。