東京大学は,東京工業大学,自然科学研究機構分子科学研究所と共同で磁性超薄膜ヘテロ構造の界面磁気結合状態を原子スケールで明らかにすることに成功した(ニュースリリース)。
近年,ハードディスクに代表される磁気媒体のさらなる高密度化への期待から,情報の書き込みや,記録された情報の読み出しに用いられる磁気ヘッドの小型化・高性能化が求められている。
磁気ヘッドは反強磁性/強磁性超薄膜ヘテロ構造から構成されており,性能向上のためにはより強固で安定な界面磁気結合状態を実現する必要がある。実験的に得られる磁気結合エネルギーは理想界面の場合と比較して2桁程度小さく,ヘテロ接合界面における原子スケールでの構造や電子・磁気状態の空間的乱れの影響と考えられているが,その機構は未解明だった。
今回,研究グループは超高真空環境下で銅単結晶Cu(001)基板上に作製したMn/Fe超薄膜ヘテロ構造について,分子科学研究所の放射光施設UVSORにてXMCD測定を行なった。超薄膜成長過程の段階毎に測定を行なった結果,反強磁性Mn超薄膜の積層数増大に伴い,Fe超薄膜の容易磁化方向が面直方向から面内方向に変化するスピン再配列転移を起こすことがわかった。
さらに詳細に見ていくと,(1)Mn膜厚が1原子層までは面直磁化・面内磁化ともに弱まる,(2)1~3原子層で面直磁化が徐々に減少して,面内磁化が相対的に強まる,という2段階のスピン再配列転移であることがわかった。そしてSTMを用いた原子分解能構造観察により,Mn積層数の増大に伴い,界面構造がFeMn不規則合金からFeMn規則合金へと変化することを突き止めた。
以上のことから界面の構造の乱れにより,磁気結合エネルギーが小さくなり,磁気秩序の形成が阻害されるという一連の機構が解明された。研究グループは今回の研究により,磁気センサー等,磁性超薄膜ヘテロ構造から構成される磁気デバイスの開発が飛躍的に進展することが期待できるとしている。