理化学研究所(理研),東北大学らの研究グループは,マルチフェロイクス材料において,電流を流すことで磁化が反転する現象を観測した(ニュースリリース)。
通常,エレクトロニクスにおける磁化の制御には外部から磁場を加える方法が用いられるが,近年,省電力化などの観点から,電流や電場を利用する磁化の制御方法が模索されている。特に,電流からスピン流を生成するラシュバ・エデルシュタイン効果を用いた磁化の制御が注目されているが,強誘電体ではまだ実現していなかった。
研究グループはまず,強誘電性を持つ半導体として知られているGeTe(Ge:ゲルマニウム,Te:テルル)に磁性元素のMn(マンガン)を添加して,強誘電性と強磁性を併せ持つマルチフェロイクス材料「(Ge,Mn)Te」の単結晶薄膜を作製した。さらに,この薄膜をフォトリソグラフィによって,幅10μm,長さ30μmの半導体試料に加工した。
次に,試料が強磁性を示す10K(約-263℃)の極低温において,この試料にさまざまな大きさのパルス電流と弱い外部磁場(0.02テスラ)を加えながら,ホール電圧の変化を測定した。このとき,ラシュバ・エデルシュタイン効果によってスピン流が生成され,磁化を反転させると考えられた。
測定の結果,パルス電流の向きが反転したところでホール抵抗値が小さくなり,磁化の向きが上向きから下向きに反転することを確認した。パルス電流の向きをまた反転させると,磁化の向きは元に戻った。これらの結果は,ラシュバ・エデルシュタイン効果によって磁化が反転したことを意味しているという。
また,膜厚が200nmという分厚い試料でも磁化反転を観察したことから,界面や表面による効果ではなく試料全体(バルク)でラシュバ・エデルシュタイン効果が発生していることが明らかになった。
ラシュバ・エデルシュタイン効果は,試料内の正孔濃度に対してその効率が変化すると理論的に予想されていた。そこで研究グループは,より高効率な磁化反転を実現するため,正孔濃度の異なる試料を用いて磁化を反転する実験を行なったところ,正孔濃度が高いほど磁化の反転率が大きいことが分かったという。これは今後の物質設計の指針へとなり得るものだとする。
研究グループは,今回の研究は電流により磁化を制御する手法の新原理を実証したものであり,今後,電流で磁気情報を書き換える低消費電力のメモリデバイスなどへの応用が期待できるとしている。