阪大,コロイド粒子の流動化が阻止される現象を発見

著者: sugi

大阪大学は,パリ大学サクレー校,パリ・エコールノルマルとともに,コロイドのガラス状態に変形を加えて流動化させるコンピューターシミュレーションを行なった結果,コロイド粒子が渋滞を引き起こし,流動化しなくなる現象(シアジャミング)を発見した(ニュースリリース)。

コロイドはマイクロメーターの大きさを持つ粒子の集まり。コロイドを分散させた溶液で,コロイド粒子の密度を高めていくとガラス状態(アモルファス固体)になる。こうなるとコロイド粒子は,まわりの粒子たちに囲まれた籠状の限られた狭いスペースの中でしか動けなくなる。

さらに圧縮していくと,粒子が全く身動きできない「すし詰め状態」になる。これは一般に「ジャミング」と呼ばれる現象。結晶の最密充填のガラス版,と言えるもの。今回,詳しい解析を行なったところ,これまでの常識を覆す結果が得られた。

シアは,圧縮と異なって体積(密度)を全く変えず,形だけを変える操作。固体はシアひずみを元に戻そうとする復元力を発生する。しかし十分大きなひずみを加えると「降伏」と呼ばれる破壊,流動化を示し,復元しなくなる。研究グループのシミュレーションでもこれは観測された。

ところが,場合によってはシアによってジャミングを起こし,流動化を阻止してしまうことがわかった。これまで,このような「シアジャミング」は摩擦のある粉体では知られていた。しかし今回の系には摩擦がなく,シアジャミングに摩擦が必須ではないことが明らかになった。

重要なポイントは,今回用いた系が,非常に高密度で安定なガラス状態にあるということ。より低密度で不安定なガラスの場合,シアジャミングが起こらなくなることもわかった。

関連する現象として,シアシック二ングと呼ばれる現象がある。これは,濃厚なコーンスターチで満たしたプールの上を走って渡るデモンストレーションなどで良く知られている。この研究により,コロイドなどソフトマターのレオロジーの基礎的理解が進むことが期待されるとしている。

キーワード:

関連記事

  • 【interOpto2025】夏目光学、可視化実験用モデルを展示

    interOpto / 光とレーザーの科学技術フェアで、夏目光学【可視化技術フェア No. B-16】は、可視化実験用モデルを展示している。 展示されていたのは、エンジンのシリンダーなど車載部品をガラスで製造したものだ。 […]

    2025.11.12
  • 【interOpto2025】五鈴精工硝子、透過・拡散ガラス・両面レンズアレイを展示

    interOpto / 光とレーザーの科学技術フェアで、五鈴精工硝子【紫外線フェア No. C-15】は、紫外線殺菌・露光装置に注目される成型可能な紫外線透過ガラス「IHUシリーズ」、高い拡散効果と安定した配光特性を誇る […]

    2025.11.11
  • 東大ら,単一元素金属がガラス化する仕組みを解明

    東京大学と中国松山湖材料実験室の研究グループは,単一元素(金属)がガラス化するメカニズムを大規模シミュレーションにより解明した(ニュースリリース)。 金属ガラスは,結晶性金属にはない高強度や耐食性,優れた加工性などの特性 […]

    2025.09.12
  • 島根大ら,放射光で金属ガラス若返り現象を観測

    島根大学,広島大学,弘前大学,高エネルギー加速器研究機構,東北大学は,金属ガラスに液体窒素温度と室温の間を繰り返して上下させる「極低温若返り効果」を起こすことで電子状態が変化することを,放射光を用いた実験で明らかにした( […]

    2025.09.11
  • 東大,赤外分光法と電子回折でナノ薄膜氷構造を解明

    東京大学の研究グループは,赤外分光法と反射高速電子回折法という2つの手法を組み合わせることで,不均質核生成によって生成したナノ薄膜氷の構造が,アモルファス氷(膜厚15nm以下)→立方晶氷(膜厚15nmから50nmまで)→ […]

    2025.08.01
  • 三重大ら,原発瓦礫のセシウムをレーザーでガラス化

    三重大学,海洋研究開発機構,太平洋コンサルタント,帝塚山大学,東電設計は,レーザーを援用したその場固定化により,コンクリート中にセシウム (Cs)を閉じ込めてガラス体を形成することに成功した(ニュースリリース)。 福島第 […]

    2025.04.21
  • 筑波大ら,THz帯を透過するガラス材料設計に知見

    筑波大学,東京科学大学,大阪大学,東京大学,立命館大学,京都大学は,ガラスにあるわずかな原子の周期構造(見えない秩序)が,ガラスの物性に影響を及ぼすテラヘルツ帯の揺らぎ(振動特性)を決定する重要な要因であることを明らかに […]

    2025.04.15
  • 東北大ら,光学材料へコロイド結晶の結晶多形を実現

    東北大ら,光学材料へコロイド結晶の結晶多形を実現

    東北大学と金沢大学は,コロイド結晶においてヘテロエピタキシャル成長を用いることで結晶多形の形成を実現し,1粒子分解能のその場観察によって多形転移が核形成や結晶成長に与える効果を明らかにした(ニュースリリース)。 化学組成 […]

    2025.04.11
  • オプトキャリア