理化学研究所(理研)らは,ナノスケールの磁気渦構造である「メロン」と反渦構造「アンチメロン」の正方格子の直接観察に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
電子は,電気的な性質である「電荷」と磁気的な性質である「スピン」という二つの性質を持つ。スピンの集まりである磁気構造体を情報担体として利用する磁気記憶素子への応用に向けて,室温でのスキルミオンの生成が望まれている。
スキルミオンはその磁気渦構造の一つで,トポロジカル数1の構造として特徴づけられ,一旦生成されると安定したトポロジカル粒子として振る舞う。これまでらせん磁性体に面内磁気異方性を導入することによって,トポロジカル数1/2である「メロン」とその反渦構造である「アンチメロン」の正方格子が安定化されることが理論計算により示されていたが,実験では実証されていなかった。
今回,共同研究グループは,室温において「Co8Zn9Mn3(Co:コバルト、Zn:亜鉛、Mn:マンガン)」というらせん磁性体の薄片に微小な外部磁場を加えたところ,磁気渦構造のメロンとその反渦構造であるアンチメロンの正方格子が生成されることをローレンツ電子顕微鏡で観察できた。
また,①外部磁場を徐々に大きくすると,メロンとアンチメロンは「スキルミオン」に変化し,その構造は正方格子から三角格子に変わること,②室温で生成されたメロンとアンチメロンの正方格子はスキルミオンの三角格子よりも温度の影響を受けやすいこと,③低温において,安定なスキルミオンの三角格子と異なってメロンとアンチメロンの正方格子は崩壊しやすいことが明らかになった。
研究グループは,この研究によって,ナノスケールのさまざまなトポロジカルスピン構造に関する研究やトポロジーに関連した創発電磁現象の研究が,さらに活発になると期待できるとしている。