山形大ら,最確の磁気構造と原子占有率の決定法を開発

山形大学と東北大学は,九州工業大学,米オークリッジ研究所と共同で,回折実験から最確の磁気構造と原子占有率を決定できる全く新しい実験データ解析法を開発した(ニュースリリース)。

物質材料・生体分子・鉱物中の結晶構造(原子の占有率と配置)や磁気構造(電子磁石の配列)は,熱・圧力・電磁場・光・化学環境等に対する応答など,物質のあらゆる特性の起源に直結している。

結晶・磁気構造は,X線・中性子線回折実験でデータを測定し,実験データに最も合致する候補として得られる。しかし,最小二乗法をはじめとする従来の方法では,与えた候補のうちどれがよりよいかの相対的な評価はできるものの,大域解(真に実験データと最も合致する結晶構造と磁気構造)であるという保証ができないことが問題だった。

そこで,研究グループは,構造解析における局所解問題を数理情報科学の観点から見直した。その結果,非線形最適化分野で発展してきた「半正定値計画緩和法」を構造解析に適用することを着想した。

この方法は,2次計画問題と呼ばれる最適化問題を半正定値計画問題に帰着することで,大域的最適化手法の一つである内点法を用いるという数理科学的な求解法で,双対定理や相補性定理により,解析結果に関する大域的収束や大域解の一意性が保証されるという極めて強力なもの。大域解が複数ある場合は,代数方程式を解く計算によりその全ての解を得ることができる。

研究グループは,実測と数値シミュレーションの回折データに対し検証を行なった。その結果,磁気構造と,結晶構造の要素である原子占有率が,半正定値計画緩和法により大域的に最適化できることが確認されたという。

さらにこの方法を,イリジウム酸化物磁性材料について実測した粉末中性子回折データに適用した。その結果,大域解であることが数学的に証明された磁気構造を実験的に決定することに初めて成功した。また,データベース中の数千個の結晶構造から数値シミュレーションにより生成した仮想回折データ群を用い,大域解であることが保証された原子占有率を決定できることも確かめた。

磁気構造は全磁性材料の基礎情報,原子占有率は水素含有材料や電池材料などで特に重要となる原子欠損や不定比情報を提供するもの。この研究は,これまで互いの高度さゆえに乖離しがちであった数理科学と材料科学(実験)の融合が創出したもので,複雑な組成の材料に対しても正しく且つ高速に求解する手段を提供するという。

研究グループは,今回の研究により,電気自動車の高効率モーター・発電機の磁石材料,水素・電池材料等が,実測で決定された正確なナノ構造情報から高性能化されると期待できるとしている。

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