九州大学と理化学研究所は,蛍光タンパク質を用いて神経回路を明るくカラフルに染色し,神経回路のつながり方を明らかにする新しい手法「Tetbow法」を開発した(ニュースリリース)。
我々の脳機能は,膨大な数の神経細胞がつながった神経回路によって生み出されるが,一つ一つの神経細胞を区別してその配線様式を明らかにすることは容易ではない。2007年に個々の神経細胞に異なる色の蛍光タンパク質を異なる組み合わせで発現させ,個々の神経細胞を区別して蛍光標識するBrainbow法が開発された。しかし,この方法は輝度が十分ではなく,神経細胞の配線の全貌を明らかにすることが困難だった。
そこで研究グループは,従来の遺伝子プロモーター(DNAからRNAへの転写を制御する,遺伝子上流のDNA領域)よりも蛍光タンパク質をたくさんつくりだすことができる,テトラサイクリン応答配列プロモーターを用いることで輝度の向上を実現した。テトラサイクリン応答配列プロモーターとは,大腸菌由来のDNA配列を改変して作られた人工的なプロモーター。大腸菌由来の転写因子を改変した人工転写因子tTAが結合すると転写が起こる。
また,汎用性を高めるためにプラスミドやウイルスベクターを用いて蛍光タンパク質遺伝子を導入する方法に最適化を行なった。さらに,蛍光タンパク質だけでなく,ケミカルタグと呼ばれる,そのままでは蛍光を発しないが,蛍光標識した基質を反応させることで蛍光標識が可能な分子なタンパク質を使い,合成色素での多色標識も実現した。
このTetbow法を用いると,個々の神経細胞を異なる色で,かつ高輝度で染色することが可能。研究グループが以前に開発した透明化試薬SeeDB2(組織透明化試薬。脳組織を数日浸けることで透明にすることができる)を用いると,蛍光輝度を最大限保ったまま脳標本を透明にし,神経細胞を立体的に観察することが可能となった。
たとえば,匂いの検出に関わる脳の嗅球の僧帽細胞の樹状突起が複雑に絡まり合う様子が可視化できたほか,大脳皮質の神経細胞においては,樹状突起や軸索の微細なシナプス構造までカラフルに浮かび上がらせることに成功した。実際にマウス嗅球の僧帽細胞では,樹状突起が複雑に配線する様子を立体的に可視化できたほか,数ミリメートル以上の長い軸索をカラフルに染めて追跡することができたという。
研究グループはこの研究により,蛍光顕微鏡を用いて神経回路の詳細な配線様式の研究を加速し,神経回路の作用機序や発達,精神疾患の神経回路基盤を明らかにする研究に貢献することが期待されるとしている。