日本原子力研究開発機構(原研),NESI,日本放射線エンジニアリングの研究グループは,底質(河川や湖沼,海洋等の水域において,水底を構成している堆積物)試料を採取することなく,底質表面でγ線測定することで,直接的に放射性セシウムの深さ分布を推定する手法を開発した(ニュースリリース)。
福島第一原子力発電所事故に由来する放射性セシウムは,大気中に放出され,降雨等によって表層土壌に吸着した。放射性セシウムは,降雨による土壌侵食によって河川に流入し,時間の経過と共に湖沼に蓄積している。
放射性セシウムが,湖沼の「どこに」,「どれだけ」,分布しているか知ることは,放射性セシウムの総量や下流域への移行を評価する上でも重要となる。しかし,汚染実態を調査するには,柱状の底質試料の採取,分割および放射能測定といった煩雑な手順を経る必要があり,より迅速かつ簡便に汚染実態を把握する手法の開発が望まれていた。
研究グループは,底質中の放射性セシウムの水平方向の分布を評価するために,底質表面で測定したγ線スペクトルから,放射性セシウムの計数率を算出。次に,底質中の放射性セシウムの鉛直方向の分布を評価するために,γ線スペクトルを直接γ線領域(放射性セシウム由来)と散乱γ線領域(コンプトン散乱由来)に分割した。そして,直接γ線領域の計数率に対する散乱γ線領域の計数率比を算出した。
底質中で放射性セシウムが表面に分布していた場合は,放射性セシウムから放出されるγ線(直接γ線)が直接的に検出される。一方,放射性セシウムが深い場所に分布していた場合は,直接γ線は上の層の土壌粒子により遮へい,散乱される(散乱γ線) 。この二つのγ線の計数率比RPCに着目することで,放射性セシウムの深さを推定した。
底質中の放射性セシウムの水平分布について,直接測定で得られた放射性セシウムの計数率と,表層(0-10cm)の平均放射性セシウム濃度との間に良好な正の相関が観察された。一方,底質中の放射性セシウムの鉛直分布について,直接測定で得られたRPCと試料測定で評価したβeff(放射性セシウムの深さ分布を表すパラメーター)との間に良好な正の相関が見られた。
新たな評価手法は,従来行なっていた試料を採取する手法に比べて,圧倒的に短い時間で底質中の放射性セシウムの分布を評価できる。それらの結果を解析することによって,帰還困難区域での農業再開に向けた湖沼の中長期的な評価が可能になるとしている。