理化学研究所(理研)は,細胞1個の内部構造を非侵襲的に(細胞を傷つけずに)可視化できる「低温X線回折イメージング・トモグラフィー」実験装置を開発し,その測定・解析方法を確立した(ニュースリリース)。
これまで細胞内の物質分布を非修飾・非侵襲的に直接高解像度観察することは難しかったが,X線の透過性を利用する「X線回折イメージング法」では,大きな細胞を数十nmの解像度で観察できる可能性が示されている。しかしこの方法には,放射線損傷や試料調製が難しいなどの問題や,観察結果を生物学的に意味のあるものと考えにくいという課題があった。
今回,研究グループは、試料の放射線損傷を大幅に低減しながら,水和凍結試料の三次元構造を100nm程度の解像度で可視化する,低温X線回折実験技術と水和凍結試料作製技術を開発した。低温X線回折実験技術は,試料を極低温に保った状態でX線を照射し,回折パターンを記録する実験技術。
今回研究グループは,±170度の回転が無理なくできる低温ポットを開発し,さらにトモグラフィー実験用の制御ソフトウェアを開発した。開発した装置を汎用低温試料照射装置に搭載し,X線回折イメージング・トモグラフィー実験を行なった結果,大きさが約6μmの原始紅藻シゾン細胞や出芽酵母細胞の三次元構造の可視化に成功した。
シゾン細胞の蛍光顕微鏡像や染色・薄片化試料の電子顕微鏡像は既に知られているが,今回得られた電子密度図では,それらよりもDNAはよりコンパクトに集合しており,葉緑体も広域に広がっているわけではないことが明らかになった。このような違いは,従来法で行なわれている薬剤の導入や細胞の加工に起因すると考えられるという。
研究グループは,低温X線回折イメージング・トモグラフィーが蛍光顕微鏡,透過型電子顕微鏡と相補的な第三の顕微鏡として機能し,「細胞丸ごと」の非侵襲・高解像度イメージングが可能になるとしている。