東京大学と大阪大学は,コバルトと酸素の間に強い共有結合が形成されたペロブスカイト型コバルト酸化物の大型単結晶を育成することに成功し,室温強磁性状態がらせん磁性状態へと変化することを明らかにした(ニュースリリース)。
スピンがらせん状に配列したらせん磁性体は,スピンのねじれ方を情報として活用した新たなスピントロニクス材料となることが期待されている物質群。ただし,このようならせん磁性を示す物質は非常に限られており,特にスピントロニクス材料の候補として古くから研究されてきたペロブスカイト型遷移金属酸化物での報告例はまれだった。
今回研究グループは,立方晶ペロブスカイト型構造を持つSrFeO3が,鉄酸化物としては例外的にらせん磁性を示すこと,また同じ構造のSrCoO3がコバルト酸化物としては唯一の室温強磁性を示すことに着目。SrCoO3に対して元素置換を行ない,コバルトと酸素の結合長を引き伸ばすことで,新奇磁性相を探索することを目指した。
しかしながら,これらの酸化物の合成には強い酸化雰囲気を必要とするために大型単結晶の育成が困難であること,またコバルトイオンの異常高原子価状態は酸素イオンを強く引きつけることで安定化するため,コバルト-酸素結合を引き伸ばしたBa置換体Sr1-xBaxCoO3の合成が難しいということが問題となっていた。
これらの問題を解決すべく,研究グループはまず大気中で安定な3価のコバルトイオンを内包する酸素欠損ペロブスカイトSr1-xBaxCoO2.5の大型単結晶をフローティングゾーン法によって育成した。これに8万気圧の超高圧下での低温酸素アニール処理という酸素欠損を持つ酸化物に対して,基本構造が壊れることのない比較的低い温度で行なわれる酸化処理を行なうことで,Sr1-xBaxCoO3(0<x<0.5)の大型単結晶を得ることに成功した。
こうして得られた単結晶に対して,X線回折測定やパルス強磁場などを用いた磁化測定することで,コバルト-酸素間の結合距離がわずか1%程度増大するだけで,室温強磁性相が新たな磁性相へと変化することを見いだした。さらに新たな磁性を示す単結晶試料の中性子散乱実験を行なうと同時に,第一原理計算によって,この新たな磁性相がらせん磁性相であることが確認された。
研究グループはこの研究により,立方晶ペロブスカイトのようにシンプルな結晶構造を持つ酸化物であっても,遷移金属と酸素の間に生じる強い化学結合を制御することでらせん磁性が生じうるということが世界で初めて実証され,これは酸化物らせん磁性体の新規開拓につながる新たな指針を与えるものだとしている。