東京理科大学の研究グループは,量子コンピュータなどの量子情報技術において重要な役割を果たす「量子もつれ」とよばれる状態を,光の粒子状態である光子を量子干渉させる方法により無条件で発生させることに成功した(ニュースリリース)。
1990年代から量子力学の原理を暗号や計算機などの情報技術への応用に積極的に利用しようという提案がなされるようになり,この分野を総称して量子情報と呼ぶようになった。量子情報では超伝導や光学的手法により,計算機能力の飛躍的な向上を可能とする量子コンピュータなどの次世代情報技術の実現が期待されている。
これまで,波長選択や遅延選択などの検出方法に依存しない「無条件にもつれた光子」を発生させるには,タイプⅡと呼ばれる波長変換方式による非線形光学過程を利用する方法が知られていた。しかし,この方法では青色波長の光子から近赤外波長の光子対への変換効率が低く,もつれた光子を小さな確率でしか発生させることができなかった。
研究ではタイプ0と呼ばれる波長変換方式の非線形光学過程を選び,サニャック型と呼ばれる光干渉計に非線形光学結晶を配置。レーザー光が非線形光学結晶を2度通過する配置をとることにより,最初に発生した光子対と次に発生した光子対との間で,量子干渉をおこすことができることに注目した。
そして,サニャック型干渉計を時計回り,および反時計回りの方向に発生した光子対を組み合わせることで,「無条件にもつれた光子」をタイプ0の波長変換方式の非線形光学過程で発生させることに成功した。
この方法で発生したもつれた光子対を量子トモグラフィーで観測し,偏光を基底とした密度行列と呼ばれる値を算出した。これらのデータから十分な信頼度を伴った偏光状態に関してもつれた光子対が発生していることが確認された。また,非線形光学過程の波長変換効率の違いから計算した結果,この手法で発生させた「無条件にもつれた光子」は従来の手法に比較して,少なくとも2ケタ以上の発生効率の改善が得られることがわかった。
研究で実現した高性能のもつれた光子の光源は,量子暗号システムにおける暗号鍵の配送効率を飛躍的に高めることができるほか,広帯域波長のもつれた光子による精密計測技術への応用,および大量のもつれた光子をリソースとする光量子コンピュータの開発に結びつくことが考えられるとしている。