大阪市立大学の研究グループは,可視光エネルギーにより二酸化炭素を有機分子に結合させて固定できる新たな人工光合成技術の開発に成功した(ニュースリリース)。
従来の人工光合成技術の多くは,二酸化炭素を一酸化炭素,ギ酸,ホルムアルデヒド,メタノールに光還元するものだった。これらの系では炭素数1の二酸化炭素を還元していくため炭素数1の分子しか生成しないことになる。
一方,天然の光合成では太陽光エネルギーにより作り出された還元力を使って二酸化炭素を還元,炭素数を拡張し,最終的には炭素数6のグルコースを生成することができている。天然の光合成と同様に炭素数を拡張することができれば,二酸化炭素を原料とした多様な素材合成への新たな展開が期待できる。
研究では,天然の光合成反応の炭素拡張反応を手本に,色素分子,電子伝達分子および生体触媒を用い,可視光エネルギーによって得られた還元力を基に二酸化炭素を有機分子(ピルビン酸)にカルボキシ基として導入(リンゴ酸が生成)可能な技術を開発した。
今回新たに開発した反応系は,炭素数3のピルビン酸に二酸化炭素を結合して炭素数4のリンゴ酸に変換する反応を触媒する「リンゴ酸酵素」と,新たに開発した「ジフェニルビオローゲン誘導体」の光還元系を連結したもの。
これまでリンゴ酸酵素を触媒として用い,可視光エネルギーを利用した二酸化炭素とピルビン酸からのリンゴ酸生成系は複雑でかつ高価な試薬を使用する必要があった。今回,ジフェニルビオローゲン誘導体を用いることによって,特に反応の低かった部分を簡略化することに世界で初めて成功した。これにより,二酸化炭素をピルビン酸に付加させることが可能な新たな人工光合成系構築に成功した。
具体的には,色素として水溶性ポルフィリンを用い,ジフェニルビオローゲン誘導体とリンゴ酸酵素とを連結した反応系において,3時間の可視光照射によって原料のピルビン酸と二酸化炭素の約5%をリンゴ酸に変換できている。これは,これまで二酸化炭素の還元が主流だった人工光合成系に対して,二酸化炭素を原料として利用可能な新たな人工光合成系が達成したものだとする。
この成果は,太陽光エネルギーを駆動力として生体触媒の機能を生かした二酸化炭素の資源化やさまざまな有機分子合成へ展開可能。近年では,生体触媒と半導体光触媒や有機無機材料との複合化に関する研究が進められている。二酸化炭素資源化反応を触媒する酵素は反応生成物選択性が高い利点があるため,今後は二酸化炭素の燃料への変換のみならず,二酸化炭素の有機分子への結合による多様な化成品や有用物質合成に展開したいとしている。