東北大学は,京都大学,理化学研究所,福井大学らと共同で,テラヘルツ(THz)光照射によりアクチンタンパク質の繊維構造形成が促進されることを明らかにした(ニュースリリース)。
THz光は一般的な光操作技術で使われている可視光に比べて光子のエネルギーが低いため,分子構造を破壊しにくいという特徴がある。そのため,生体分子のような大きな分子を変性させ
ること無く,その高次構造を「ソフトに」変えることが可能であると期待されている。
これまでの研究で,THz光照射が人工高分子の構造を変えることが分かっている。しかし,細胞のような複雑な対象にTHz光を照射した際にどのような変化を誘起するか,まだ明らかになっていない。
研究では,細胞内の高分子の構造や機能に対してTHz光が与える影響を明らかにするため,多様な生命現象に関わるアクチンに着目した。アクチンは,細胞から単離・精
製した後も繊維形成能を維持する特性があるので,精製したアクチンを用いることで,THz光照射のタンパク質への直接的な影響を評価できる。
アクチン単量体の水溶液に塩を添加すると,重合が促進され繊維が形成される。その際,アクチンに蛍光分子ピレンを標識すると,ピレン蛍光の強さから繊維の数を定量的に評価できる。研究では,ジャイロトロンを光源としたTHz光照射(0.46THz)を行ないながら,ピレン蛍光の強度変化をモニターし,THz光がアクチンの繊維形成に与える影響を評価した。
その結果,アクチン繊維の形成がTHz光照射によって顕著に促進される事が明らかになった。THz光照射されたアクチン繊維は,非照射と同様に直線状の形状を示しており,照射がタンパク質の変性や機能喪失による凝集を誘起しない事も確認された。
アクチンは様々な細胞機能に関与するタンパク質であることから,これまでにもその繊維形成に影響を与える薬剤が多数開発され,医療応用も進められている。しかし,これらの薬剤を瞬時に細胞内に運んだり,取り除いたりすることは困難だった。
研究で発見したTHz光照射によるアクチンの繊維化は,このような問題を生じることなく,直接細胞内のアクチン機能を操作できる可能性を示した。さらに,研究グループではTHz光照射によるアクチン繊維形成促進のメカニズム解明に取り組んでいる。
今後THz光がタンパク質の構造変化を誘起する過程が明らかになれば,様々な生体高分子を対象にした構造や機能の操作が実現する可能性があり,広範なバイオ分野における応用が期待されるとしている。