横浜国立大学,岡山大学,神戸薬科大学,北海道大学らの研究グループは,光照射型-固体核磁気共鳴分光(NMR)装置を用いて,ロドプシンタンパク質の一つであるフォボロドプシンが,光吸収後に生成する複数の光中間体のレチナールの構造を解明した(ニュースリリース)。
ロドプシンは,哺乳類の網膜から微生物の細胞膜にまであらゆる生物が光を利用するために保持しているタンパク質であり,その中にレチナールと呼ばれる化学物質(発色団)を必ず持っている。通常,レチナールには光を吸収する性質があり,その構造が変化する光異性化反応が起きる。
つまり,ロドプシンはレチナールを利用して,イオン輸送や信号伝達などの機能を発現するタンパク質として生物の中で活躍している。生物物理学をはじめとして広い研究分野において,ロドプシンは注目を集めているタンパク質であり,機能を発現する過程で次々と現れる中間体の構造はロドプシンの仕組みを理解する上で極めて重要な情報となる。
研究グループは,分子構造を原子レベルで観測できる固体核磁気共鳴分光法を用いて,このようなロドプシンの光中間体を検出するために,光照射固体NMRの開発とその改良を重ねてきた。光照射固体NMR技術とは,固体NMRにおいて高分解能なNMR信号を得るために利用されるマジック角回転法に光照射を組み合わせ,試料に対して高い効率で光をあてることを可能にしたもの。
研究グループは微生物型ロドプシン一つであるフォボロドプシンに13C安定同位体標識したレチナールを組み込み,いくつかの光中間体のレチナールの構造を光照射型-固体核磁気共鳴分光法(NMR)による実験データから解明した。特に,フォボロドプシンの大きな構造変化を引き起こすことが予測されているM中間体とO中間体に加えて,今回新たにこれらの中間体を結ぶN’中間体の解明に成功した。
N’中間体は光可視吸収スペクトルだけでは完全な区別が難しく,これまで検出が難しかったと考えられているという。また,量子化学計算によるアプローチで各中間体におけるレチナールの構造変化を説明することに成功した。
生物はロドプシンを利用して光の情報を巧みに利用している。光照射固体NMRを利用した成果は今後,レチナールを取り囲んでいるフォボロドプシンのダイナミックな構造変化を捉えることに発展すると同時に,あらゆる生物が持つロドプシンに適用することができることが可能になる。今後,生物がロドプシンを通じて,光を利用する仕組みの解明につながる展開が期待されるとしている。