東京工業大学,理化学研究所,産業技術総合研究所らは,カーボンナノチューブ(CNT)膜を材料としたウェアラブルなテラヘルツ検査デバイスを開発した(ニュースリリース)。
テラヘルツ帯を活用した検査技術は,製品の内部に渡る形状・材質といった情報を非破壊で測定できるとして注目を集めている。しかし,二次元平面的な構造からなる一般的なカメラを使用する場合,測定対象を全方位に渡って検査するには,カメラないしは測定対象を360度機械的に回転させる必要があり,インライン検査やウェアラブルセンサーへの応用を困難なものとしていた。
研究グループは,2016年にCNT膜の光熱起電力効果を用いたフレキシブルなテラヘルツ帯撮像デバイスを開発している。今回はウェアラブルな検査デバイスの開発に向けてまず,フレキシブルテラヘルツ検出器の高感度化に着手した。テラヘルツ光の検出原理はCNT膜で発生する光熱起電力効果を利用しており,高感度化に向けてはCNT膜の「熱雑音の低減」,「テラヘルツ光に対する吸収率の向上」,「相対ゼーベック係数の向上」が重要な課題となっていた。
CNT膜のフェルミ準位の制御がこれらを解決する鍵となった。1本のCNTあるいは非常に薄いCNT膜では,標準的な電界効果トランジスタ構造によってフェルミ準位を制御できる。一方でフレキシブルテラヘルツ検出器に用いる厚みのあるCNT膜に対しては,この手法が適用できない。
通常は半導体と金属が混合しているCNT膜を分離し,電気二重層技術ならびにゲート電極を使用しない化学的ドーピングを用いることで,フェルミ準位を連続的に変えながら熱雑音,テラヘルツ吸収率,相対ゼーベック係数を系統的に調べることが可能となった。これにより,フェルミ準位の位置を最適化することで,上述の3つの課題を同時に克服することができた。
作製したフレキシブルテラヘルツ検出器は,折り曲げ可能な耐久性を有し,フレキシブルテラヘルツ検出器をグローブの指先に装着することでウェアラブルなテラヘルツ検査デバイスを開発した。
このテラヘルツ検査デバイスは大規模な測定系を必要としない。そのため,従来の検査技術では難しいとされた工場内の配管設備など複雑に入り組んだ環境での検査も,検査デバイスを測定箇所に潜り込ませるだけで簡便に全方位非破壊検査を行なうことができる。
これにより,工場内の入り組んだ環境での品質検査や,訪問医療などの移動先での即時検査といった従来の非破壊検査技術では難しいとされた応用の実現が期待されるという。今後は検出器のさらなる多素子化,微弱信号の高感度読み出し回路や無線通信との結合などを行なうことで,IoT社会に貢献するセンシングシステムを構築するとしている。