東京大学と大阪大学の研究グループは,1分子イメージング技術を用いて,クライアントタンパク質の一つであるアルゴノートの形がダイナミックに変化する様子を直接観察することに,世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
タンパク質の一部は,「介添人」の役割を果たすシャペロンの助けを借りることにより,自身の形を変えることではじめて機能を発揮することができるようになる。このようなタンパク質は「クライアントタンパク質」と呼ばれ,細胞の中に少なくとも数百種類あることが知られている。しかし,シャペロンがクライアントタンパク質の形をどのように変化させるのかについては,これまで詳しく調べる方法がなく謎に包まれていた。
シャペロンは,作られたばかりのタンパク質の形を整えるだけでなく,完成したタンパク質の形を変化させることによって,そのタンパク質の持つ本来の機能を引き出し,活性化する作用がある。分子シャペロンの一つにHsp70とHsp90という2つタンパク質を中心としたHsp70/90シャペロンシステムがある。
研究グループは,アルゴノートの2つの異なる場所にそれぞれ異なる蛍光分子で目印をつけ,1分子イメージング技術を用いることで,Hsp70/90シャペロンシステムのはたらきによってアルゴノートの形がダイナミックに変化する様子を直接観察することに成功した。これは,このシャペロンシステムがクライアントタンパク質の形を変化させる過程を1分子レベルでとらえた,世界で初めての例。
今回,アルゴノートをモデルとして,それぞれのシステムの役割を詳しく調べてみると、Hsp70/90システムは共にアルゴノートを開かせる方向にはたらくものの,その作用メカニズムには大きな違いがあることが見いだされた。このシステムのはたらき方の違いと協調動作のしくみは,様々なクライアントタンパク質に対しても共通であると考えられる。
よって今回の研究は,長年不明だった「Hsp70/90シャペロンシステムはクライアントタンパク質に対して何を行っているのか」という根本的な問いに対し,1つの答えを与えるものだという。
近年,シャペロンのはたらきを制御して,がんやアルツハイマーなどの原因となるタンパク質の機能を調整することにより,病気の治療を行なうという試みがなされている。この成果は,シャペロンが担う分子レベルの役割に迫るものであり,現在進められているシャペロンを標的とする医薬品の開発などの応用を加速することが期待されるとしている。