産業技術総合研究所(産総研)と慶應義塾大学は,蛍光色素付き発光基質類を開発し,生物発光の多色化を実現した(ニュースリリース)。
ホタルやウミシイタケ(海洋性生物)などの生体内の生物発光酵素による生物発光は,一般に生体に無害で,複雑な検出器が必要でないので,さまざまなバイオアッセイでの発光標識として用いられている。生物発光は蛍光に比べてバックグランド信号が低く,高感度な発光標識であるが,発光そのものは弱く,発光色も限られていた。
研究グループは,結晶構造が既知のウミシイタケ発光酵素(RLuc)と産総研の人工生物発光酵素(ALuc®)の酵素活性部位に結合できる天然の発光基質であるセレンテラジン(CTZ)の構造の計算科学シミュレーションを行なった。その結果,発光酵素ALuc®と発光酵素RLucに対して化学修飾をすると,基質と酵素との結合に大きく影響するとの予想が得られた。
そこで,小さな蛍光色素分子を導入し,一連の新たな蛍光色素付き発光基質を合成した。また,新たに合成した発光基質に対して最適に発光する新たな人工生物発光酵素(ALuc®)群も開発した。これらは,既存の ALuc®のアミノ酸配列を参考にしつつ,発光プランクトン由来の発光酵素のデータベースから頻度の高いアミノ酸を抽出し,各配列間のアミノ酸相同性を高める方向で配列を改変して作製した。
今回の開発は,蛍光色素付き発光基質が発光酵素と反応してエネルギーを産生し,そのエネルギーは蛍光色素に伝わって蛍光色素がない場合とは異なる色の蛍光を発光するという作業仮説に基づいて行なった。実際に,今回開発した蛍光色素付き発光基質を酸化させることにより化学発光を誘発したところ、青から赤まで多様な化学発光色を示した。
これらは,化学発光共鳴エネルギー移動(CRET)によって発光基質が産生した共鳴エネルギーが、蛍光色素に移動して、多様な色の光を発光したと考えられるという。これらの蛍光色素付き発光基質を今回開発した人工生物発光酵素のひとつであるALuc16と混ぜると,生物発光エネルギー移動(BRET)による発光とみられるスペクトルが観察できた。
一方,蛍光色素付き発光基質の合成過程の中間体発光物質を生物発光酵素と混ぜることで,発光は青色(400nm付近)になるが,この発光物質に蛍光色素をつけた発光基質を混ぜると緑色の発光(522nm付近)を示し,別の生物発酵酵素を用いても同様の発色現象がみられた。
このように,発光基質に蛍光色素などを導入することによって,さまざまな発光色が得られた。導入する蛍光色素を変えることにより,さらに多彩な発光色の創出が期待されるとしている。