東京大学の研究グループは,細胞内小器官から生体内の臓器に至るまで,生きたまま蛍光でpHを測定する新たな蛍光色素群を開発した(ニュースリリース)。
細胞は取り込んだたんぱく質や有機物質の代謝,細胞構成成分の合成,輸送など,さまざまな生化学反応を調整して,生命機能を維持している。これらの生化学反応を効率良く行なうために細胞内には多くの異なった小器官が存在し,それぞれ種々の生化学反応に最適な固有のpHを維持している。
臓器レベルでも生体内のpHは維持されている一方,pHの異常はさまざまな疾患につながる。そのため,生体内のpHの観察技術は,疾患メカニズムの解明や疾患の診断といった,基礎生命科学と臨床医療の両面で重要となっている。
細胞内や生体内の特定の部位に集まる物質を蛍光色素に結合させ,生きた細胞に添加したり動物の血液中へ投与することで見たい部位へと蛍光色素を送りpHの測定を行なった。今までの蛍光色素は内部が酸性の小器官でのpHの測定は難しく,また光の照射によって徐々に色素が壊れ蛍光が弱まるため,長時間の観察が困難だった。
今回開発した蛍光色素は光の照射による色素の崩壊が遅く,長時間の測定が可能になった。さらに,酸性から中性にかけてオーダーメイドで見たいpHに適した蛍光色素に作り変えられるので,生きた状態でさまざまな細胞や臓器のpHを測ることができる。
この技術は,観察する生体への遺伝子導入を必要とすることなくpHの測定ができるため,多種類の生体での観察が可能。これまでに,内部が酸性の小器官であるリソソームや,鉄輸送たんぱく質が細胞の外から細胞内に輸送される際の周辺のpHの変化を観察することに成功した。マウスの観察では,開発した蛍光色素を静脈内へ投与し,腎臓内や皮下腫瘍モデルマウスで腫瘍内のpHを測定することに成功した。
今回開発した蛍光色素群を用いることで,臓器内のpHや細胞内小器官のpHをこれまでより簡便かつ正確,リアルタイムに測定することができ,がんの画像診断への応用だけでなく,pHの異常が関与する疾患の解明およびそれに基づく薬の開発に貢献することが期待されるとしている。