産業技術総合研究所(産総研)は,特殊な構造の高分子薄膜(ポリマーブラシ)を基材表面に作製する上で重要な役割を果たす重合開始層を,常温・大気中・大面積で容易に形成できる技術を開発した(ニュースリリース)。
高分子を基材表面から直接,伸長させたポリマーブラシは,高分子が直接基材と強固に結合し,高分子がブラシのように伸びた特殊な構造のため,従来のポリマーコーティングにはない優れた耐久性や安定性,特異な表面機能を持ち,次世代型高分子被覆材料として期待されている。
ポリマーブラシの作製には,高分子形成の起点となる重合開始層が必要なため,その重合開始層を容易に大面積で形成できる手法が求められていた。
今回開発した技術では,重合開始基を持つ有機シラン(トリアルコキシシラン)と,テトラアルコキシシランを混合した塗液を各種基材に,特殊な前処理をせずに塗布,乾燥するだけで重合開始層を形成できる。常温・大気中で形成できるため,スプレー法やグラビア印刷といった汎用の塗工手法が使え,容易に大面積化できる。
また,シリコン基板のほか,耐熱性のないプラスチック基板にも使用できる。さらに,産総研独自のポリマーブラシ簡易合成法(ハケ塗り法(Paint-on法))と組み合わせると,従来は困難であったA4以上の実用基板サイズのポリマーブラシが常温・大気中で作製できる。
今回開発したポリマーブラシ用重合開始層の形成技術は,基材への特別な前処理が不要で,ガラス,金属,プラスチックなどの汎用的な基材を用いて,常温,大気中で形成できるため,量産性に優れている。また,Paint-on法と組み合わせると,大面積のポリマーブラシを常温・大気中で容易に作製できる。
これまで特殊な実験装置,反応条件,合成技術が必要だったポリマーブラシ作製を,簡便に行なえるようになったため,ポリマーブラシの産業応用が加速すると期待されるとしている。