京都大学と東京大学らの研究グループは、光による核磁気共鳴(NMR)の新しい検出法を開発・実証した(ニュースリリース)。
核磁気共鳴(NMR)は,物理的・化学的・生物学的に関心のある液体および固体材料の構造および動力学の情報を取得できるが,信号が微弱であることが弱みであり,測定の信号対雑音比を改善するためのさまざまな試みが行なわれてきた。
一方最近,量子光学・量子エレクトロニクスの分野では電気―機械―光ハイブリッド量子技術を用いて電気信号を光に変換する技術が開発された。電気信号の検出に比べて,光の測定は非常に低雑音で行なうことができる。そこで研究グループは,NMRの(電気)信号を光に変換することを試みた。
これまでにもファラデー回転,力検出,蛍光,および原子磁気測定のような光でNMRを検出する方式の報告がなされてきたが,これらは全て,特殊な試料でしか測定できなかった。今回のプロジェクトでプは,生体を含む,多種多様な系を測定対象とする光によるNMRの検出法を確立することを目指した。
光によるNMR信号検出の原理として,ハイブリッド量子技術の1つである共振器オプトメカニクスの原理を応用した。金属で被覆した窒化シリコン膜を電気回路のコンデンサー電極および光学干渉計のミラーとして用い,NMR信号をラジオ波(RF)から光に周波数を変換した。
ここで,RF電気回路と光干渉計は,太鼓の膜のように機械的に振動する窒化シリコン膜を介して結合され,互いに相互作用する。その結果,電気回路に発生したNMR信号は窒化シリコン膜の機械的振動に変換される。さらに振動する薄膜の変位は,レーザー光を用いた光干渉計により光信号に変換される。
この原理を用いて,水に含まれる水素原子核のNMR信号を光に変換する実験に初めて成功した。こうして化学分析および磁気共鳴画像(MRI)診断に利用されている既存の電気的NMR検出手法との高い互換性を持つ光NMR検出が実現した。
今回の新しい光NMR検出法の信号対雑音比は,窒化シリコン膜のブラウン運動に起因する熱雑音および付加的な技術的な雑音によって現在制限されているが,装置の改良および実験条件の最適化で,従来の電気方式と比較してより優れた感度を提供できることを理論的に示した。
今回の光NMR検出法は,今後NMRやMRIの感度をさらに高めることが期待できる。また,共振器オプトメカニクスの原理を活用することで,NMR信号の機械的なパラメトリック増幅や核スピンの冷却の可能性も示唆され,巨視的な物理系の量子制御を目指したハイブリッド量子技術の応用範囲がさらに拡がることが期待されるとしている。