産業技術総合研究所(産総研)と東京大学は共同で,超伝導検出器に関し,1本の読出線上に従来の5倍となる1000画素以上の信号を載せることができる技術を開発した(ニュースリリース)。
超伝導検出器は,単一光子・粒子のエネルギーや微弱電磁波強度の精密計測が可能であり,宇宙から到来する微弱電磁波の長時間・精密観測などに利用されているが,計測時間短縮に必要な多画素化が遅れている。その主因は,極低温の多画素検出器と室温処理装置をつなぐ読出線に載せられる画素数が限られるため。
多画素化のために読出線の数を増やすと,読出線経由の流入熱が増えて冷却装置の強化が必要となり,計測器全体の体積・消費電力・価格の上昇につながる。今回開発した技術は,複数の室温信号処理装置を並列動作させ,室温処理装置ごとに全画素の情報を異なる周波数帯に変換し,まとめて1本の読出線上に載せるもの。
試作として,1台の極低温冷却装置に実装された極低温回路,二台の室温信号処理装置,これらの間を接続する配線から成る,最も基本的な試験装置を製作し,正常動作することを確認するとともに,読出回路として重要な,雑音や画素間クロストークの少なさが従来法に劣らないことを実証した。
従来型の多重化法では約1000個の画素信号のためには,同型の極低温冷凍機を3台以上必要としたが,今回の多重化法を数百画素規模の超伝導検出器に適用することで,超伝導多重化チップ,汎用マイクロ波部品,市販の小型極低温冷凍機1台(三相200V,消費電力7kW,概略寸法:巾40cm×奥行き30cm×高さ60cm)で,1本の読出線上に多重化できる見通しが得られた。
載せられる画素数が飛躍的に増大したことで,超伝導検出器を用いる分析電子顕微鏡,放射線分光器,光子顕微鏡などの計測時間短縮や,小型化・低消費電力化・低廉化が期待されるとしている。