原研ら,放射光光電子顕微鏡で絶縁物をナノスケール化学分析


日本原子力研究開発機構(原研),高輝度光科学研究センター(JASRI)及び東京大学は共同で,大型放射光施設(SPring-8)の理研軟X線ビームラインBL17SUの放射光光電子顕微鏡(SR-PEEM)を使うことによって,人工的に2wt%のCsを吸着した粘土鉱物(風化黒雲母:部分的に風化した黒雲母)のナノスケールでの化学結合状態の分析法の開発に成功した(ニュースリリース)。

福島第一原子力発電所の事故以降,粘土鉱物に吸着した放射性Csの化学結合の状態の解明が,効率的なCs除染や汚染土壌の減容化など対して重要であることが指摘されてきた。ミクロな粘土鉱物は組成や大きさが粒子毎に異なるため,それぞれの粒子を識別して分析する必要があった。

SR-PEEMは,化学結合状態の実空間分析がナノスケールで可能な魅力的な手法だが,絶縁体に対しては帯電という致命的な問題が発生する。そこで,薄い導電性膜を表面に付着させることでその問題を回避し,人工的にCsを吸着した粘土鉱物に対してナノスケールで元素分布や化学結合の情報が得られることを実証した。

今後,SR-PEEMによる化学分析は,多種多様なCsを含有した粘土鉱物や廃炉に伴う模擬燃料デブリなどの原子力分野に応用されるとともに,ナノ電子デバイスの絶縁材料,移動体通信フィルターデバイスに利用される酸化物圧電材料や酸化物表面で起きる触媒機能の解明など,次世代イノベーションを支えるさまざまな機能性材料の品質や性能向上を目指した研究開発に利用されていくことが期待できるとしている。

その他関連ニュース

  • 名大ら,放射光X線で有機分子の価電子分布を観測 2024年07月25日
  • 新潟大,超解像顕微鏡でアクチン細胞骨格を3D撮影 2024年07月19日
  • JAISTら,生きた細胞の微細構造を解析する手法開発 2024年07月16日
  • 順天堂大ら,安価なDIY光シート顕微鏡システム開発 2024年07月02日
  • 東北大ら,放射光で原子運動をナノ秒精度で測定 2024年06月18日
  • 阪大ら,X線回折法でGaN結晶中の3次元歪み場を検出 2024年06月13日
  • FBRIら,X線照射を造血幹細胞の再生医療に応用 2024年06月11日
  • 東大ら,XFELで生体観察できる軟X線顕微鏡を開発 2024年05月24日