名古屋大学,あいちシンクロトロン光センター,仏エクス-マルセイユ大学,スペイン バスク大学,独マックスプランク研究所は共同で,原子スケールでの界面化学反応性や物理的な界面歪みを制御することで,広域にわたり結晶性の高い2次元ハニカムシート構造の創製に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
炭素の2次元結晶であるグラフェンは,電気的,熱的,機械的強度を備える。最近,注目を浴びているポストグラフェン物質には,グラフェンの結晶構造であるハニカム格子は維持したままで,構成元素を炭素から,より重い元素(シリコン,ゲルマニウム,スズ)に置き換えたシリセン,ゲルマネン,スタネンなどがあるが,グラフェンのように原子スケールでバックリング(凸凹)してないハニカム格子は発見されていなかった。
研究グループは,2年半にわたり悪戦苦闘した結果,スタネン作製において下地基板との原子スケールでの界面化学反応性及び物理的な界面歪みを制御することで,世界で初めて原子スケールでバックリングしていない二次元スタネンの創製に成功した。
理論的研究により,グラフェンの炭素をスズで置き換えたスタネンは,比較的大きなスピン軌道相互作用を持つため,物質内部で金属ではなく半導体的な性質となりやすく,一方で,表面や端面等のエッジ部分のみ電子が流れやすい状態が実現できると期待されている。
このような物質はトポロジカル絶縁体と呼ばれ,現在,ナノテクノロジーの分野で注目されている。実際に,このような物質が作製されたかどうかは,試料端面にて量子スピンホール効果を測定することが必要とされている。
今回,世界で初めて原子スケールでバックリングしていない二次元スタネンの創製に成功した。構成元素は質量数が大きいほどスピン軌道相互作用が強く,特に,スタネンは冷やすことなく室温で2次元量子スピンホール効果やトポロジカルな超伝導など,様々な応用が見込まれている。
今後は,創製したスタネンを半導体基板上へ転写し,室温下でのスピントロニクスやトポロジカル超伝導体への応用が期待されるという。トポロジカル超伝導体は,上述のトポロジカル絶縁体との類似で,物質内部で超伝導ギャップを持ちながら,表面や端面等のエッジ部分でマヨナラ粒子が現れることが予言されている。