高輝度光科学研究センター(JASRI),大阪大学,理化学研究所は共同で,大型放射光施設SPring-8において,ナノメートルの表面精度を持つ2次元楕円面鏡を作製し,楕円面鏡としては世界で最小の100nm集光ビームを実現した(ニュースリリース)。
SPring-8やX線自由電子レーザー施設SACLAで利用されるX線顕微鏡では,光源で発生したX線を無駄なく集めて微小な観察対象を明るく照明し,試料からの信号をできる限り効率的に検出する高感度分析や微量元素分析が期待されている。このためには,X線の集光ビームを形成するレンズであるX線集光光学素子の作製技術の高度化が必須となる。
今まではX線用の鏡(X線鏡)を2枚組み合わせることで2次元のナノ集光ビームを形成しており,1枚のX線鏡で2次元のナノ集光ビームを形成可能な高効率X線鏡を作製することができなかった。
研究グループは,1枚の鏡により2次元のX線集光ビームを形成可能な楕円面形状を持つ鏡の開発に成功した。2次元ナノ集光ビームを形成可能な楕円面形状を持つX線鏡は,急峻な傾きを持つ表面形状に対して,高精度な表面が必要であり,2次元的な非球面表面形状をもつ楕円面鏡に対して,従来の技術では,必要なナノメートルの高精度表面を作製することが困難だった。
今回研究グループは,X線の2次元集光ビームを形成するため,2次元的に楕円面形状に湾曲した表面形状をもつX線鏡を設計した。このような2次元的に湾曲した楕円面鏡をナノメートル精度で作製するために,2次元的に湾曲した表面に対応した非球面加工や表面形状計測法を開発し,1㎚精度の楕円面鏡の作製に成功した。
さらに,この楕円面鏡を利用したX線顕微鏡をSPring-8で構築し,楕円面鏡としては世界最小サイズである縦方向125㎚,横方向85㎚の2次元集光ビームの形成に成功した。
これにより,2次元的な非球面形状をもつX線鏡の作製技術の確からしさが実証された。楕円面鏡による集光は,SPring-8やSACLAで利用される様々な先端X線顕微鏡を支える高効率ナノビーム形成や光学系の安定性の向上に役立つものとしている。