産業技術総合研究所(産総研),東北大学,物質・材料研究機構,大阪大学,高輝度光科学研究センターは共同で,電圧制御型の磁気メモリー(電圧トルクMRAM)用の新材料を開発し,高効率な電圧スピン制御を実現した(ニュースリリース)。
IoTやAIが切り開く次世代IT社会ではビッグデータの高速処理が必須となり,IT機器の消費電力低減はますます重要になる。CPU,メモリーの消費電力を低減する有効なアプローチに不揮発性メモリーの導入がある。
磁気トンネル接合(MTJ)素子の記録層の磁化の向きを制御して情報を記録し,トンネル磁気抵抗(TMR)効果で情報を読み出す固体磁気メモリー(MRAM)は,書き込みのエネルギーを与えない限り磁化の向きが保持される不揮発性メモリーのため,情報の維持に電力を必要としない。
しかし,現在製品開発が進められているMRAMは電流で情報を書き込むため,電流による発熱に起因する電力消費が生じる。そのため既存の半導体メモリーよりも駆動電力が数桁大きく,用途が制限されている。
一方,電圧トルクMRAMは,電圧で情報を書き込むので,駆動電力も小さい理想的な不揮発性メモリーの実現が期待されている。しかし,その実用化では,電圧スピン制御効率の増大が課題となっている。
電圧をかけて金属磁石薄膜の磁化の向きやすい方向(磁気異方性)を制御する電圧スピン制御技術は不揮発性固体磁気メモリー(MRAM)の駆動電力を低減するキーテクノロジーとして注目されている。今回,典型的な磁石材料である鉄(Fe)に低濃度のイリジウム(Ir)を添加したFeIr超薄膜磁石では,実用上求められる垂直磁気異方性を保ちつつ,電圧スピン制御効率が従来よりも約3倍高効率化することを見いだした。
これにより電圧トルクMRAMの実用化に向けた性能目標が初めて達成された。電圧トルクMRAMは,現在のMRAM開発の主流である電流方式よりも書き込みに必要なエネルギーを大幅に低減できる可能性が有り,待機電力が不要で,駆動電力が小さい新たな不揮発性メモリーの実現につながると期待されている。