東京大学の研究グループは,確率論的に起こる一つ一つの分子の反応挙動を顕微鏡で見ることで,その挙動が量子力学の理論の予測に合致することを初めて明らかにした(ニュースリリース)。
ダブルスリット実験は電子の量子性を表す著名な実験。電子一つ一つは粒子としてランダムに挙動する一方で,波としての法則性も示す。分子同士の反応も同様に挙動するものと予測されてきたが実験的証明はなかった。研究では,化学反応がランダムに起きる一方で,統計的には一定の法則に従う,という量子力学的遷移状態理論の予測を実証した。
化学反応研究は19世紀以来,反応容器の中に入れたアボガドロ数(10の23乗)個の分子の総量の増減(バルク実験)を追跡することで行なわれてきた。今回,一次元に配列させた[60]フラーレン分子の反応を,分子一つ一つについて,温度を変えながら原子分解能電子顕微鏡で直接観察して,数十個の分子について積算した。
その結果,一見ランダムに起こっているようにみえる化学反応が,総和を取ると一次反応速度式に従うことが明らかとなった。これは量子力学的反応速度論による理論的予測を実験で実証した初めての例となる。
この成果を応用することにより,多数の分子の平均に頼る従前の研究手法では平均に埋もれてしまった微細な分子の動きに関する情報が獲得できるようになり,新しい化学反応の発見や,宇宙空間や地球内部など高エネルギー環境における反応モデルの提唱,さらには原油の接触改質などの工業スケール反応における高効率触媒の開発や合理的な化学反応プロセスの設計につながると期待されるとしている。