NIMSら,透過中性子によるスピン配列観測に成功

物質・材料研究機構(NIMS)は,日本原子力研究開発機構及びJ-PARCセンターと共同で,入射した中性子ビームが試料をどれだけ透過したかを測定することで物質の電子スピンの配列を観測することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

現在,電子の持つスピンを複雑に配列させて利用する新しい機能性材料に注目が集まっているが,これらの配列の評価は,中性子ビームを入射し,この配列から回折してくる中性子の強度を計測する手法にほぼ限られていた。

しかし,この手法では中性子が入射ビームから配列ごとに特定の角度をとって回折してくるため,様々な機器をその軌道を妨害しないように測定対象の直近に上手く配置することが難しく,このことが,新たなスピン機能性探索のフロンティアである超高圧・強磁場・超高温/低温などの多重極限環境下で発現する未知のスピンの配列を評価・解明するための実験の大きな制約となっていた。

今回,研究グループは,試料に中性子ビームを当てると回折した中性子の分量だけ透過中性子の強度が減少するため,透過中性子を計測してもスピン配列の情報が得られるはずであるいう単純な原理に着目した。

実際に,大強度陽子加速器施設J-PARCで生成されるパルス状の中性子を,あらかじめスピンの配列が分かっているニッケル酸化物に入射し,透過してくる中性子の強度と波長の関係を調べた。その結果,スピンの配列を反映した特定の波長で中性子の透過強度が大きく減少することを見出した。

透過してくる中性子の軌道は必ず入射する中性子ビームと同一直線上になるため,試料の環境を制御する機器は一律にその軸線上からわずかに外すだけでよく,そうした機器の設計の自由度が飛躍的に向上する。

今回,透過中性子の測定がスピン配列の評価に有効であることが明らかとなったので,今後はその強みを活かした多重極限環境発生機器の設計を進め,スピンが生み出す新機能の探索範囲の拡大に貢献する。

さらに,入射・透過ビームの直進性を活かせば,スピン配列のイメージング像(レントゲン像)を容易に撮影できることから,これまで不可能だった磁気デバイス等の内部のスピン状態を非破壊で観察することで磁気デバイスの高度化にも貢献するとしている。

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