東北大学の研究グループは,金属磁石に強い光をあてることで,全ての電子のスピンが同じ向きに揃った配列から互い違いに逆向きの配列となり,瞬時に磁石としての性質を失うことを理論計算シミュレーションにより示すことに成功した(ニュースリリース)。
磁石では,電子のスピンが全て同じ向きに配列することで全体として磁石の働きが現れる。スピントロ二クスにおいてはスピンを効率よく素早く操作することが大容量の情報を高速に取り扱うために重要であり,その原理を明らかにすることが強く求められている。
最近のレーザー技術を用いることで非常に短い時間でこれを操作できる可能性が出てきた。これまでの研究により,スピンが互い違いに並んだ絶縁体に光を当てると,すべて同じ向きに揃った金属になることがわかっていた。
今回研究グループは,その反対の操作が可能であることを示した。つまり,電子スピンが全て同じ向きに揃った金属に強い光を当てると,互い違いに逆向きとなり,瞬時に磁石としての性質を失うことを理論計算シミュレーションにより示すことに成功した。
磁石において全てのスピンが同じ向きに揃うのは,平行にする力がスピンの間に働くため。今回の計算では,レーザーを当てることで,スピンを互いに平行にする力 が反平行にする力に転換したことを意味している。磁石の性質を担っている“スピンを平行にする力”は1950年代に発見され,それ以来半世紀以上にわたって多くの磁石の現象がこの力の原理に基づいて理解されてきた。
この研究では発見以来初めて,強い光をあてることでこの力が正反対の性質を示すことを明らかにした。また,この現象がおよそ100-1000フェムト秒という高速で起きること,またスピン配列のトポロジーが重要な役割を果たしていることを計算により明らかにした。
これまでの研究により,スピンが反平行から平行にする機構はわかっている。両者を併用することで,スピンの配列を双方向に高速に操作することが可能となることが期待される。スピンの配列と電気の流れは深く関係しているので,スピントロ二クスにおいて,超高速スイッチを利用したデバイス設計の指針を与えることが予想されるとしている。