また,この造形装置では高粘性の光感光性樹脂の使用も可能とし,その許容度は広いとしている。研究段階では,アルミナ粉末を使った樹脂や,セラミックス製材料の構造物への対応も進めているという。
同研究機構では,開発した3Dプリンティング装置の事業化に向けてマーケティング活動を展開しており,その中でアプリケーションを想定した構造物の作製も進めている。
一つは4 cm四方の正六面体の3次元マイクロ流路で,内側にニッケルメッキを施したもの。流路は2,048本が2系統となっており,出口の孔のサイズは0.2 mmとなっている。流路にメッキを施すことで,ガスなどの気体や液体を流しても樹脂に対する影響がないという特長を持つ(写真1)。
また,厚さが8 mmで,4 cm角の微細なハニカム構造を持つ造形物の作製にも成功している。ハニカム構造部の内接円の直径は0.45 mmと極めて微細なものとなっている(写真2)。同研究機構によれば,「銅メッキを施すことで,触媒機能を持たすことも可能になるだろう」とする。
作製したこれらの造形物はマイクロリアクターやバイオチップなどといった応用展開が期待できるとしている。こうした構造物の作製にかかるコストメリットの高さも強調する。実際の造形物は,表面が金属であるものの,樹脂を基本としているため,低コストで作製できる可能性を示すという点だ。
さらに,軽量強靭な構造材料の応用展開もアプローチの一つとして挙げている。実現すれば,軽量化を求める自動車分野において,車体フレームや内装品への利用も可能という。
3Dプリンティング装置を用いた開発はハイブリッドロケット燃料にも至っている。これについては北海道大学と共同研究を進めているという。試作したのは,0.3 mmの貫通穴が420穴あいた直径4 cm,長さ10 cmの円筒型のもので,貫通穴に酸素を注入して燃焼させるロケットエンジン用固形燃料だ(写真3)。
一方,イギリス・インペリアル大学と共同で,3Dプリンターによるテラヘルツ波向け導波管も試作し,その成果を発表している。導波管は電磁波を閉じ込めるもので金属製となっている。THz領域になると導波管は,0.1 mm程度の空洞を金属内に作成することが非常に難しく,製造コストが高くなるといった問題もある。
これに対し,試作した導波管は樹脂にメッキを施したものであるため,低コストで製造が可能になるという。同研究機構によると,「3Dプリンティング装置では多品種少量生産にアドバンテージがあり,こうしたテラヘルツ波研究向けなどの市場にも参入できる特長がある」としており,今後は導波管としての性能を上げる研究開発を進めるとしている。◇
(月刊OPTRONICS 2017年10月号掲載)