慶應義塾大学は,パイオニア・マイクロ・テクノロジー,光伸光学工業,オプトクエストと共同で,新規通信波長帯であるTバンドを用いた超高精細(4K)映像伝送の実証実験に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
光通信におけるTバンドは1000~1260nmの波長帯のことであり,光ファイバー伝送で主に用いられているCバンド(1530~1565nm)やLバンド(1565~1625nm)と比較して伝送損失が大きく長距離伝送が難しいため,これまで光通信用途には用いられてこなかった。
しかし,近年のクラウドコンピューティングや超高精細映像サービスの普及により,データセンタネットワークやアクセスネットワークなど数十キロメートル以下の中・短距離光通信技術の需要が急速に高まっており,50GHz間隔で1000以上の波長チャネル数を確保可能なTバンドの活用が期待されている。
研究では,量子ドット技術を用いてTバンドで動作可能なゲインチップを実現し,このゲインチップを搭載した波長可変光源およびSOAを開発した。また,Tバンドで動作可能なAWGを開発し,AWGルータを構成した。さらに,開発した波長可変光源,SOA,波長ルータを用いてTバンド波長ルーティングシステムを構築し,4K映像の非圧縮伝送に成功した。
4K映像の伝送には12Gbit/sの伝送速度に対応した映像信号伝送規格である12G-SDI(Seria Digital Interface)を用いた。また,開発した波長可変光源の波長切り替え時間は100ms以下であり,低遅延な経路切り替えが可能であることを示している。
TバンドおよびOバンドにおける光ファイバー損失はCバンドと比較して大きいことが課題とされてきたが,データセンターネットワークやアクセスネットワークなど比較的近距離の通信においては,損失は制限要因ではなく,むしろ波長資源の活用による伝送容量の拡大や並列化の推進による消費電力の低減など,多くのメリットがある。
広大な波長資源を有するT/Oバンドを利用することで,低コストで低遅延な強度変調・直接検波(IMDD:Intensity Modulation Direct Detection)方式を用いて大容量化を実現することができるとしている。