高輝度光科学研究センター(JASRI),大阪大学,東北大学,大阪大学,日本大学,および愛知医科大学は共同で,磁性合金薄膜にパルス光を照射することにより,これまでにない巨大な磁気の波が生成されることを発見した(ニュースリリース)。
近年,物質の電子とスピンの両方の自由度を活用する電子工学「スピントロニクス」が精力的に研究されており,その中で,物質中に磁気の波(スピン波)を発生させて情報伝達に利用するという新規技術の応用が期待されている。
この研究では,大型放射光施設SPring-8の瞬時に光る放射光を用いて,レーザーパルス光をGd-Fe-Co合金と呼ばれる磁性体の薄膜に照射した直後のスピンの振る舞いを「時間・空間に分けて」観測した。
Gd–Fe–Co合金は光と磁気の相互作用が大きい物質であり,レーザーパルス光を照射することでスピンの向きを「反転」できることは既に知られていたが,今回の研究では,Gd–Fe–Co合金の組成をうまく調整することで,「伝搬スピン波」を発生させることもできた。
レーザーパルス光の照射により伝搬スピン波が発生することは,これまでもフェリ磁性の酸化物やフェロ磁性金属などで実証されてきたが,これらの物質系で励起されたのは歳差運動角で0.1~1°程度と微弱な振幅のスピン波だった。
一方,今回のGd–Fe–Co薄膜で観測されたのは約20°の歳差運動角を持つ「巨大な」スピンだった。つまり今回,これまでの10倍程度の振幅を持つ「巨大な」スピン波を発見し,直接的に観測することに成功した。
パルス光を用いてスピン波が励起される現象自体はこれまでも知られていたが,これまでにない巨大な現象として観測できたことで,スピン波を用いた磁気通信技術の実用化に寄与するものだとしている。