東京工業大学,日本原子力研究開発機構,高エネルギー加速器研究機構,茨城大学,総合科学研究機構の研究グループは,量子効果が顕著な三角格子反強磁性体の磁気励起の全体像を,中性子散乱実験で初めて捉えた(ニュースリリース)。
研究グループは,三角格子反強磁性体の理想的なモデル物質「アンチモン酸バリウムコバルト(Ba3CoSb2O9)」に着目し,大型単結晶試料を作成,中性子を入射して,散乱中性子のスペクトルを高精度で解析。通常の磁性体で見られる磁気励起とは大きく異なる新奇な磁気励起について詳細を明らかにした。
その結果,従来の磁気励起の最小単位よりも細かい単位の励起(分数励起)の必要性を示唆する結果となり,フラストレーションと量子効果が新たな物性研究のフロンティアを開くこと,精密な中性子散乱実験が新奇な電子物性の解明につながることを示す成果となった。
通常の磁性体の磁気励起は,磁気の担い手である電子のスピンが平衡位置のまわりで起こす小さな歳差運動が,波として結晶全体に伝搬する“スピン波理論”で表される。その一方で,スピンが小さい三角格子反強磁性体では強いフラストレーションと量子力学的効果で,スピン波理論が成立する波長領域は,極めて限定的であることが理論的に知られていた。
この研究では,この現象を実証するとともに,磁気励起を統一的に説明する新しい理論の必要性を明確に示した。今後,フラストレーションの強い量子磁性体の研究の活発化をもたらすと期待されるとしている。